岐阜県出身の昭和後期~平成時代で活躍している染職家で、重要無形文化財「紋紗」の保持者として知られています。
紋紗は向こう側の景色が透けて見えるほど薄い生地が特徴で、平安時代以降、公家の夏の装束として愛され現在まで伝わっています。
しかし、専用の機を使うのですが、一反織るのに1ヶ月半以上もかかる高度な技術が必要な織物です。
そんな土屋順紀が生まれ育ったのは関市本町で、当時は春日神社にある能衣装もよく見に行き、早くから着物の美に接する機会に恵まれていました。
染織との出会いは京都の専門学校に在学中の時に授業で訪れた志村ふくみの工房でした。
志村ふくみは植物染料による紬織の大家として知られ、日本伝統工芸展などで活躍し、重要無形文化財「紬織」の保持者です。
そんな志村ふくみの工房には植物で染めた色とりどりの糸が並べられており、土屋順紀はその美しさに魅了され、志村ふくみに師事する事を決めました。
こうして3年半の修行を積み、故郷に戻って自身の工房を構え、独立します。
使う糸は四季折々に採集した植物を煮出して染めた絹糸で、それを媒染剤に浸して発色させていきます。
土屋順紀はこの色糸を経に1100本立て、緯糸を何万回も通して織り上げていき、はじめて作品として完成します。
しかし、同じ植物でも天候や場所によって微妙に異なるそうで、それぞれに植物の命が優しく宿っているのを感じとり、その色を最大限にいかせる作品へと仕上げていきます。
そのため、作品のベースには生まれ育った関市の豊かな自然にあり、創作のテーマとしては常に美しい郷土の自然を表現する事でした。
また、羅と経錦の重要無形文化財として知られる北村武資に捩織を学び、植物染めを生かした巧緻な模様を織り成す紗の世界を表現する事に成功しており、紋紗に絣の技法を融合させた独自の織物を創作しています。
どの作品も一目見て土屋順紀だと分かる世界観を持っています。