花押
今回は難しいイメージもある花押について手短に取り上げます。
花押は「書き判」(かきばん)ともいい、個人の署名に代える標識です。すなわち署名のかわりに書いた記号の一種のことを呼びます。
手紙の差出人の氏名を書くときに用いられ、器物(茶の器や茶道具)にも、作家の印や鑑識者の印として幅広く用いられます。
公家、武家、僧侶、町人のそれぞれに特徴が産まれ、平成の現代においても政界で用いられています。
花押 形
花押の字体は以下のように分類されます。
- 草名体 名前の草書から作られる書体 (公成・佐理)
- 二合体 差出人の名前の漢字の偏・つくりをデザイン化して用いる書体(頼朝の束、月を併合する書き方など)
- 一字体 差出人の愛好する文字や名乗りの反切を用いるもの(足利氏の義の字、秀吉の反切悉の字が文様化されたもの)
- 別用体 絵画などからヒントを得て作られたもの(戦国期の三好氏など)
種類に分け、よく見ていくことがポイントですが、道具に書かれて出てきた時にわかるかどうか…いわの美術では茶道具・日本の古美術品の鑑定の鍛錬を積んだ担当者が無料でお調べし、査定いたしております。
古美術品に花押らしきマークがある際は、花押の部分と品物の全体のお写真をメール下さいませ。
花押 調べる
花押は、平安時代以降に自らの著名の代行として貴族の間に広く取り入れられていました。やがて武家にもこの風習は取り入れられました。近世以降は庶民も花押を使用するようになりますが、戦国大名たちがその先駆けでした。彼らは新風文化の担い手としての自負があったことから領国内に発給する文書に統治者としての理念を刻んだ印を多用しました。
こうした時代の風潮の中で、次第に花押の使用頻度は少なくなりましたが、数寄者の間では懐古趣味として花押は好まれました。茶の数寄者たちの間で取り交わされた消息(手紙)や道具箱、茶杓、香合といった遺された品々には、数々の花押が遺された例を見ることができます。
このような消息や道具箱などが時代の経過に伴い巷に出回るようになってからは、その署判者を推定するための手がかりが必要とされてきます。
- 古今茶人花押叢(今昔の茶人の花押をシリーズ化した花押集)
- 茶人花押叢
など、木版で版を重ねた和書が様々に遺っています。
延享年間より、広く広範囲に流布した形跡が遺っているといいます。
花押は一人で何種類も用いることがあり、これらの花押集にも多種多様な花押が収録されています。
これらの花押は時期や目的による使い分けを署判者(花押を所有し使った人物)ごとに考えながら見ていく必要があります。
しかしずさんな編集の資料もあり、形の崩れた花押や他の人の花押が流用されたものも少なく無いと言われています。資料をよく選び、署判者の推定は十分に検討しなくてはなりません。
平成の現代においては、花押辞典が発行されておりますので、忍耐強く調べていけばお持ちの茶道具や美術品に遺された花押が見つかるかもしれません。