昨今ではすっかりおなじみになった「北欧ブランド」「北欧デザイナー家具」との出会いは、日本でも今では随分と身近となりました。
北欧ブランドの日用品については
「かわいらしく使いやすい北欧のデザインの家具や食器を集めている」
「北欧ブランドは高いけれどフォルムに無駄がなく気に入り、使っている」という方もおられることでしょう。
北欧デザインと呼ばれるプロダクトが持つ明るい色彩のパターンやシンプルな形は何となく見たことがあっても、なぜそのデザインが「北欧」由来なのかという理由については判然としないという方も、実は多いのではないのでしょうか?
そして、中にはどうして北欧で優れたデザインプロダクトが産まれたのかという問いを持たれる方もいらっしゃることでしょう。本コラムでは北欧デザインの成り立った背景と考え方、北欧の重要なデザイナーについて見ていきます。
「北欧」の国々は
フィンランド
ノルウェー
スカンジナビア半島に位置するスウェーデン
デンマーク
アイスランド
の五か国をまとめて「スカンジナビア」と呼ばれています。
スカンジナビアは世界の中でも緯度が高く海に囲まれ、北極に近い地域であるため、一年を通して気温が低いことに加えて年間の日照時間そのものが少ない地域です。
どの国も人口は少なめで、もともとは天然資源も限られ経済力も低かった事から近代化は一足遅いペースで進みました。そのため近代化に伴って、単なる競争だけではなく近隣の国同士が互いに協調しあうという精神的な風土が急速に築かれました。5つの国々は1953年に「ノルディックカウンシル」(北欧理事会)を設立したことを契機に交通通信などのインフラ整備、経済・法律・社会・文化に渡って多くの連帯を計ることを実現してきました。
長く厳しい冬を過ごすことが必須なスカンジナビア諸国に暮らす人々にとっては、室内での暮らしを支える照明器具の光が非常に重要でした。
なぜなら北緯55度~65度のスカンジナビアの冬は
など特有の気候があるために
規則的な光と睡眠のリズムを確保することがこころとからだの健康のためにも必須だったという深い理由があったのです。
人間の想像を超える厳しい自然を熟知した北欧の人々は自然に逆らうことなく、限られた自然の素材を最大限に生かして家を建て、生活の道具を作り、積極的に伝統手工芸品を作り出しました。それらは屋内での生活をより暖かく、より健やかに充実して過ごすための努力と工夫の賜物でした。
北欧の人々の意識に「自分たちの暮らしは自分たちでつくる」という土台があったうえに、
「飽きの来ないシンプルデザイン」
「機能的で長く使える実用的なデザイン」
「丈夫で修理をして長く使えるもの」
が好まれる合理的な性格があったことで、ちょっとしたおもちゃや雑貨においても、お家のなかで過ごすのが楽しくなるようなキュートさや豊かな色彩ある生活用品を作りました。
なかでもその後のフィンランドは「デザイン」や「建築工学」「人間工学」が含まれる、今でいうところのSTEM科目(理科、技術、工学、数学)にあたる理系科目の教育を国の重要な国策の一環として早くから力を注ぎ、その結果の一つは機能の高い電化製品や安全性の高い日用品、デザインにおけるスカンジナビアデザインとして証明されました。スカンジナビアのデザインを鑑賞するにあたってはドイツの「バウハウス」という歴史的に有名な学派の影響は重要です。 バウハウスが築き上げたデザインと建築の専門教育はスカンジナビア・ミニマリズムという洗練そのものの様式や建築家・デザイナー、優れた職人が生み出される追い風となったのです。
1950年代~1960年代にスカンジナビア(北欧5か国 フィンランド、ノルウェー、スウェーデン デンマーク アイスランド)のデザイン製品は観光立国と、科学を応用した高い技術力を知らせるという志をもって戦略的に売り出されました。
それらはいわの美術も査定を行っているマリメッコに代表されるようなファブリック、ヴィンテージのグスタフスべリやロールストランド、アラビア、イッタラのカイフランクによる食器、アルネヤコブセンなどのデザイナーが手がけた家具、ルイスポールセンに代表される建築と記っても切り離せない照明器具、レゴやブリオに代表される知育玩具でした。
中でも家具は、例えば映画「ノルウェーの森」のなかの家具調度にみられるようなミッドセンチュリーモダン家具の流行に沸いた60年代のアメリカで大流行し、北欧のデザインは世界のデザインプロダクトを席巻しました。
スカンジナビアの国々の国民性には「大きな自然」を言葉や絵、物のかたちにして表す感性が根付いていることと、近世以前までの歴史に裏付けられた民俗的なルーツ(狩猟文化やヴァイキング、遅いキリスト教化)という共通点があることにより、それぞれの国が異なる文化的な個性を持ちます。そして、それぞれの国同士がゆるやかな共感をもつ類の感覚と、感覚を現実で形にするための「論理」をつなぐ思考法である「デザイン言語」という理論を発達させてきました。
調理をしたあとそのまま運ぶことができる耐熱グラタン皿やフライパン型の皿を開発したグスタフスべリのヴィルヘルムコーゲのうつわは、当時の一人暮らしの若者の間で大ヒットし、世界に広がりました。
ヴィルヘルムコーゲは濱田庄司のアトリエを訪れ、生活する空間が混在した濱田のアトリエの環境に触れます。コーゲは自宅とは離れたスタジオで作業する自分たちとは対照的な制作の在り方に驚いたといいます。
一方でスティグリンドべリは経済成長が著しかった当時の日本に訪れた際、右向け右といった様子で西洋のスタイルをまねた日本の量産品食器の工場を目にして、とりわけ食器はどのような量産品であっても「手仕事のあとを遺すことが必要だ」と感想を述べ、カイフランクは「工業的な場にこそ作家のクリエイティビティ―が必要だがデザイナーの名前を出すべきではない」といった旨の感想を書きのこしており、北欧デザイナーの仕事には機能性と表現の豊かさが必ず同居していることが分かる記録となっています。
いわの美術ではスカンジナビアデザインに分類されるデザイナー家具や北欧モダニズムの陶器、北欧のおもちゃなどを査定しています。イッタラやアルネヤコブセン、フィンユール、ヴェルナーパントン、ウェグナー、ルイスポールセンなどをご売却の際には、品物の全体や、品物が並んだお部屋を写したお写真を撮影ののち、お写真を付けたメールを送信くださいませ。