アールデコの彫刻
ディミトリ・チパルス:Demetre Chiparus
ディミトリ・チパルス、またはディミトリ・H・チパルスは日本語ではほとんど紹介されないアールデコ期の彫金・彫刻作家の代表格です。
彼はルーマニア出身、1886年に生まれ1947年にパリで没しています。イタリアでラファエロ・ロマネッリに師事したあとエコール・デ・ボザールで学ぶためにパリへ渡りました。
チパルスの最初の彫刻はリアルな様式において作成され、1914年のサロンで展示されました。彼は金と象牙で装飾されたブロンズと象牙の組み合わせを作品に用いました。
像の身体の部分が象牙、衣裳の部分がブロンズ、よく磨かれた台座は美しい石目がクッキリとでた大理石や天然石を切りだしたものとなっております。
彼の有名な作品のほとんどは1914年から1933年までに作られました。チパルスによって作られた彫刻の最初のシリーズは、子供の像でした。1920年からチパルスの創作は円熟期を迎えました。
アールデコの彫刻~ディミトリ・チパルスの芸術~
チパルスが遺した彫金像は、象牙で表現された柔軟な人体と顔の表情がもたらす生命感があります。ブロンズでできた衣裳部分のピッタリとした質感、とても繊細なドレープやダンスの動きでできる美しいスカートのすそや房飾りの動きの装飾表現などが最もわかりやすい特徴です。顔の表情は同時代のフェルディナンド・プライスやアガトン・レオナールと比べても自然な、喜びを含んだ表情です。このような彫金技術が継承されている可能性は低く、原材料の象牙もワシントン条約により入手が困難となっていることから再現は非常に難しく、希少性が年々上がっております。
そして。チパルスの作品に群像や二体の作品が多い理由も、モデルにありました。ロシア・バレエやパリ・オペラ座、ロイヤルオペラのバレエダンサー、初期の映画に出てくるダンサーが彼の周りにたくさんおり、彼の創作の主なテーマだったところにあるようです。
スレンダーで四肢の長い彼の人物の像は、モデルに恵まれたチパルス独自のスタイルとして確立されたものでした。そしてファラオのツタンカーメンが発掘された際にチパルスはエジプトに大きな影響を受けたため、エジプトの衣裳の踊り子の像や「シェヘラザード」というアラビアを舞台とした悲劇のダンサーをモティーフにした作品シリーズが生まれました。
ディミトリ・チパルスは市場ではさかんに取引がある一方で、レプリカやコピーも多く慎重な見極めが求められる作家の一人です。チパルスの真作は台座が長いネジ釘一本で止められており、台座裏にネジ釘が刺さっていないものが贋作であるといわれておりますが、贋作づくりも日々進化しています。そのためチパルスの作品は実際に見なくては判断が難しい品の一つとなっております。