こちらの作品は、木彫作家 前島秀章による『忍』です。
心穏やかに手を合わせた幼子と背を合わせて対になった鬼。
虚勢を張り何かにつけて人々から憎まれ役の多い鬼でも、この鬼は周りを威嚇するでもなくよく見ると今にも泣きだしそうで、何かに耐え忍んでいるような表情を浮かべています。相対する心情を写し出し、眺めていると人それぞれ違った物語が生まれそうな、人間らしい温かみを感じる作品です。
前島秀章
作家として独立独歩の軌跡
1939年静岡県生まれの日本を代表する木彫作家です。ユーモアに溢れ、愛嬌たっぷりの作品で誰しもがほっこりと和むような作風が人気です。
前島秀章が制作を始めたのは10代後半。12歳の時に見かけた藤田嗣治のデッサンに惹かれ、素描や水彩画を始めたのがきっかけでした。しだいに運慶・快慶ら鎌倉初期の彫刻に感銘し、立体造形制作に意欲を高めるようになり独学で彫塑制作を始めます。
家業であった茶商の経営が厳しく、貧しい家庭環境で育った前島の彫刻家としての夢は「生計を立てることが難しい」と家族から理解を得ることはありませんでした。
周囲からの反対を押し切り孤立無援の状況で制作を続けますが 作品は全く売れず、今でいうフリーターとして職を転々とする日々を過ごします。次々に8種類も職を変えるうちに人々の喜怒哀楽を知り、のちの制作活動に大きく影響する貴重な経験につながりました。
さらには十二指腸潰瘍という病魔に襲われ、胃を摘出する手術を受けます。しかし、大病をきっかけに生への歓びを自覚。以来『木にいのちを彫る』創作を実践しつつ、『こころ』を探求した作風へと移変していきました。
その後も彫っても売れず、作っても評価されない日々が8年
続き、彫刻家としての道も半ば諦めかけた頃、33歳で初個展の
依頼が舞い込みます。彫りあげた作品すべてを発表した前島は、思いも寄らない評価に大いに感激したと語っています。
初個展で成功を収め、その後も各地で個展を開催し、日本のみならずニューヨークで個展を開催するなど人気が高まり、海外でも作品内容に対する理解が高まりました。
35歳の時に創型会彫塑展で2年連続受賞して会員となりますが、後に自らの意志で退会。現在に至るまで無所属で活動しています。
実は、前島はこの頃まで能面の制作も手掛けていました。日本を代表する能面作家の長澤氏春に指導を仰いでいましたが「伝統を重んじる古面の写しに徹する芸術の偉大さに畏敬の念を抱きつつも、もっと自由にのびのびと人間の表情を作りたい」と、恩師の言葉にたびたび背いては創作面を彫るうちに、ついには師から出入りを禁じられるようになってしまった、というエピソードも残っています。
作家活動60周年を迎えて
木彫り一筋60年「木には神様が住んでいる」と、300-400年の木を使うこともある前島は木には敬いの気持ちを持って接していると語ります。天変地異やさまざまな試練に耐えて育ってきた木の肌に見える木目を、これから制作する人や動物にどう生かそうと考えることから創作を始めるそうです。
寿命を終えた木を使うことにより、再び木にいのちを彫り込み、人々に作品をとおして語りかける。前島は「美しいものに出会うと人間の心は清められ、それと同化しようとする。芸術が人間に与えてくれるいちばん大きな作用は、浄化(カタルシス)であると信じている」と話します。「芸術の目的は人間を幸せにすること」と80歳を越えた今もなお、更に深く『いのち』を見つめた創作活動に邁進しています。
いわの美術でのお買取り
弊社ではホームページまたはLINEにて無料査定を行っております。
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