ビスクドールとは19世紀から20世紀初頭にかけてつくられた、陶器製の頭部やボディをもつ人形です。
多くはアンティークに分類され、往年のクラシカルなお洋服とメーカーの個性が際立つ美しい造形で、長年コレクターに愛されてきました。
初期のビスクドールの役割はクチュリエが服の見本を着せるための小型マネキンだったため、大人の体形をしたファッションドールでした。
19世紀中盤に差し掛かり新興富裕層が台頭すると、情操教育も兼ねた子供向け玩具として人形の需要が高まります。
さらに1855年のパリ万博で日本の市松人形が展示された事などから、赤ちゃんのような愛らしさと6~7歳ごろの少女のかわいらしさを併せ持つべべドールが誕生しました。
ビスクドールのビスクはフランス語の「ビスキュイ」が語源で、直訳では二度焼きという意味があり、この言葉通りビスクドールの陶器パーツは複数回にわたり焼き締められます。
これによりマットな陶器となり人間の肌を追求した独特の質感が完成します。
ビスクドールの生産はフランスとドイツの2国が主流となり、どちらも技術的に優れ美術的価値の高いドールを作り続けました。
多くのドール工房は19世紀前半に創業し、1860年代から1900年の間をピークとして多くの名作ビスクドールがこの期間に生み出されています。
現在でも人気の高いブリュはこの最盛期にあたる1866年から1899年の33年間のみの操業で、1900年には合弁会社S.F.B.Jに吸収合併されました。
S.F.B.J( Société Française de Fabrication de Bébés et Jouets。)は、ジュモー、ブリュ、パリべべの三社が対等な合弁会社となり、ドイツに比して製造コストの上がったフランス産ビスクドール産業を守るべく結成されました。
19世紀後半に急速に成熟したヨーロッパのドール市場は、1890年代には機械人形が登場し、さらなる近代化の道を辿ります。
グラスアイは固定だったものから、横にすると瞼を閉じるスリーピング・アイ、上下左右に瞳がうごくフラーティングアイなどが生まれ、ドールの子供らしい愛らしさはさらに追及されていきます。
市場拡大に伴い製造環境とコストも変化しますが、そのなかで1895年頃までにフランスのドール工房はドイツに比べ高コストとなり、さらに質は同等という苦境に立たされます。
そこで主要ドール工房が結託し合弁会社をつくることでドイツへ対抗し、一時は勢いを取り戻しますが、第一次世界大戦の混乱が落ち着く1930年代にはドイツが再び首位に立ちます・。
またこの頃には合成樹脂によるさらに安価なドールが玩具市場に登場し、最も長く続いたS.F.B.Jは第二次大戦中も操業を続けましたが1958年に解散となりました。
アンティーク市場で非常に人気の高いビスクドールの多くはフランスの名門ドール工房製です。
ビスクドールの起源通り良家の子女むけの美術性・芸術性の高い作りが特徴です。
ゴーチェ
1860年頃からビスクドールのヘッドの製造を始め、1870年代には特許を取得し他のオール工房にヘッドを提供していました。
後に他社からボディの供給を受けオリジナルのドール製造を始め、19世紀後半のビスクドール最盛期に最大規模の工房のひとつとなりました。
ジュモー
ピエール・ジュモーとエミール・ジュモー父子が設立した工房で、アンティークドールの中でも評価が高いブランドです。
人気シリーズはポートレイト、テート、デポゼ。トリステなど。面長にふくよかな頬とアーチ眉に穏やかなアーモンドアイで優美なお顔が特徴。
ブリュ
フランスの工房の一つでジュモーと人気を二分する存在。
人気シリーズはブレベテ、サークルドット、テトゥ、ブリュ・ジュンなど上品な顔立ちを得意としてべべドール全盛の1870-80年代に人気を博しました。
その他、スタイナー、A.T.(アー・テー)、フライシュマン&ブローデル、ラベリー&デルフィなどのドール工房がありました。
ドイツではフランスの後を追う形でビスクドール生産が始まり、初めはヘッドメーカーとしてフランスへ卸していた工房もあります。
次第に変化する市場を見据えて一般大衆向けも意識したドール作りが始まると、質実剛健な作りでいて快活なドールはたちまち人気者となりました。
アーモンド・マルセル、
ビスクヘッド作りに最適な土の採れるチューリンゲン地方で創業し、高級ビスクドールから普及版玩具のドールまで幅広く生産しました。セルロイド人形に取って代る第一次世界大戦後まで操業します。
シモン・ハルビック
ドイツを代表するドール工房で、一時はジュモーなどフランスの工房へビスクヘッドを輸出していました。
J.Dケストナー、
1800年代後半からビスクドールを製作し、玩具人形のグーグリー・アイも人気です。
上記のほかG.ホイバッハ、ケマー&ラインハートなども人気の工房です。
工房・年代
アンティークビスクドールは頭部・胴部が分かれ、工房や年代によってはそれぞれ別の工房製のこともあります。
ヘッドは首の後ろ側、胴部は背中に刻印があり、これを確認することで工房と年代の大凡の判断が可能です。写真査定の際にはこちらを写して頂けますと幸いです。
状態
ビスクドールは陶器の特性として割れる場合があり、大きな傷でなくともひび割れや傷が人形のお顔にある場合は、価値が3割程度にまで下落してしまいます。
人形のヒビなど不具合をヘアラインといい、査定に出す前に有無をチェックされることをお勧めいたします。
口による違い
ドールの口には開いた形のオープンマウスと、口が閉じているクローズドマウス、口が開いたようにみせかけたオープンクローズドマウスの3種類があります。
閉じた口のビスクドールは古い時代によく作られていたため、クローズドマウスの方が高額査定となるケースが多いですが、開いた口に歯が見えているオープンマウスは高度な技術を用いた高級品であるため高額査定される可能性があります。
復刻版
多くのビスクドール工房は戦間期または戦後までに操業を終えており、後の時代に制作されたレプリカ、リプロダクションも多く流通しています。
とくに人気の人形作家によるリプリダクションは高値がつく場合があります。
いわの美術では美術品・骨董品を中心に西洋アンティークも幅広いお買取りを行っており、ビスクドールも過去のお買取り実績が多数ございます。
ご実家やご自宅の整理、蔵や倉庫のお片付けなどで、ご売却をお考えのビスクドールがありましたら、いわの美術にお任せくださいませ。