今回お買取したお品物は、福井良之助の「果実」という作品です。
福井良之助は昭和後期に活躍した東京都出身の洋画・版画家で、東京美術学校(現・東京藝術大学)鋳金部工芸科を卒業していますが、工芸には魅力を感じなかったのか在学中も油絵ばかり描いていました。
その作品は、古典的な構図にセピア色の色調で雪景色や舞妓を日本画のような繊細な描線で優美に描いています。
また女性をモチーフとした作品も多く、そのほとんどが横顔という構図も特徴的です。
そんな福井良之助は、画家として活躍する前の1955年頃からおよそ10年間だけ版画に取り組んでいます。
その頃の作品がアメリカ人画商の目に留まったことでアメリカのコレクターから高く評価され、絵よりも版画の方が人気となっています。
そんな福井良之助の版画の技法には、蝋原紙に鉄筆で線を引いてインクの透ける孔(あな)をあけ、上からローラーで摺る孔版画が用いられています。
蝋原紙に文字や絵を描くには経験とコツが必要で、力加減を間違うとすぐに破れてしまいます。
福井良之助は、その繊細さに夢中になったと言われています。
ちなみに福井良之助の作品の背景は、微妙な濃淡茶褐色や淡緑色が施されていますが、この色調を福井良之助は「むらむらとした感じ」と気に入っていたそうです。
この色調のせいか、今回買取となった「果実」という作品も、なつかしさや親しみを感じる素敵な作品でした。
また福井良之助の版画作品は、用いる技法上、刷れる枚数も限られていることから少数であり、版画作品のほとんどが海外に流出しているという希少価値の高さやお品物の状態が買取額に大きく影響を与え、今回も高価買取となりました。