龍渓硯は江戸時代に横川、一ノ瀬村で医者を開業するかたわら、寺子屋式で学問を教え、書道も嗜んでいた淵井椿斎が、この地にあった鍋倉山に露出している粘板岩に目をつけ硯を作って使用し、墨のおりが良かった事から村人たちに硯作りを勧めたのがはじまりと言われています。
この頃はまだ龍渓硯とは呼ばれておらず、財政難であった高遠藩によって全ての砥石が所有され、甲州雨畑の硯職人たちを招いて硯の製作・指導にあたらせました。
こうして出来上がった硯は大名などへの贈り物として重宝され、民間の手に渡る事はなく、秘硯とされていました。
その後、「高遠硯」「鍋倉硯」として売られるようになり民間でも入手できるようになります。
それから時が経ち、昭和10年には長野県知事・大村清一によって「龍渓石」と命名された石を使って作られる硯という事で「龍渓硯」と呼ばれるようになり、隆起しましたが、筆に代わるペンが普及したため、一時衰退してしまいますが、現在も製作が続けられています。
そんな龍渓硯ですが、今回お買取したものは深澤秀石という作者の龍渓硯です。
深澤秀石は現在3代目がその名を継いでおり、硯工房清泉堂で龍渓硯の製作を行っています。
初代・深澤秀石はもともと甲州雨畑の硯職人で、雨畑石の採石が難しくなってきた事を危惧し、龍渓石に目をつけ移り住みました。
しかし、2代目・深澤秀石の時代になると龍渓石の採石も難しい時期が訪れましたが、龍渓石の新層発見を信じて作硯技術を磨き、10数年後に龍渓石の新層が発見された時はその優れた作硯技術とデザインで龍渓硯の製作を行い、日本工芸会正会員に選ばれ、「鍋倉漆象嵌硯」「鍋倉水巖硯」などを発表し、注目を浴びました。
現在、龍渓硯は深澤秀石と翠川袈裟美のみが工房を構え龍渓硯の製作にあたっており、大変貴重な硯となってしまいました。
そのため、今回のお買取も共箱付で状態も良かったため、高価買取となりました。
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