はっきりとした色合いの3客の入れ子の茶碗に大きく口を開けた龍が勢いよく描かれたこちらの作品は、永樂家十七代善五郎による交趾の「鉢」です。龍の爪先まで力強さを感じる細かな意匠に、作者の生命を吹き込んだような印象を受けます。
交趾焼とは
中国華南で元・明時代に三彩や、黄、緑、紫などの釉薬を掛けて焼かれた陶器の愛称を指します。
名前の由来は、ベトナム北部トンキン・ハノイ地方の古称であるコーチンが日本風になまって交趾(こうち)という名称で親しまれるようになったことから来ています。この地には室町末期から江戸初期頃日本の南海交易船が数多く訪問し、様々な物産を持ち帰っており、この地を訪れる交易船のことを交趾船あるいは交趾帰りと当時の人たちは呼んでいました。多くの茶人が好んで交趾焼を茶席で使ったことから、しだいに京焼でも生産されるようになり、現在では京焼を代表する製法のひとつとなっています。色ガラスと同じ成分が使われ、鮮やかな発色とこまかなデザインがその特徴で、専用の窯と焼成技術をもつ窯元でのみ製造されています。
永樂家の歴史
千家の焼物師として茶席に華やかさを添える器を作り続けてきたことで知られる永樂家。
永樂家の仕事として思い浮かべるのは、やはり華やかさと繊細さとを併せ持った染付や色絵の陶器という方が多いのではないでしょうか。
しかしその祖は奈良の出身の土器師(はじし)と呼ばれる素焼きの土器を制作し、西村姓を名乗り、土風炉(どぶろ)を作る家筋でした。
千利休が活躍を始めると、二代善五郎は当時茶の湯の中心地であった大坂・堺へと移り住み、当時の大名茶人、細川三斎や小堀遠州の支持を得て、遠州より「宗全」の銅印を拝領し、それを捺した土風炉を数多く制作しました。千家との交流もこの頃に始まり、元伯宗旦より四代善五郎に宛てた、東福門院の注文を宗旦が取り次いだという書状が今も永樂家に残されています。
土風炉づくりを生業としてきた永樂家の仕事が大きな転機を迎えたのは江戸末期、十代善五郎(了全)の時のことでした。天明八年(1788)年の天明の大火で工房や屋敷はもとより、家に伝来する古文書のほとんどを失った了全は、表千家八代啐啄斎(そったくさい)と九代了々斎の意向を受け、樂家九代了入のもとに通って陶芸の技術を学びます。
表千家十代吸江斎が紀州徳川家に初出仕する際にはこれに同行し、藩主徳川治宝侯より『河濱支流』(かひんしりゅう)の金印と『永樂』の銀印を拝領しています。
さらにその後を継いだ十一代保全は歴代のなかでも名工とされ、現在の永樂家の仕事の礎となる祥瑞(しょんずい・中国明末に景徳鎮で作られた磁器)や安南写(あんなんうつし・ベトナムで焼かれた陶磁器の雰囲気を写した器)などの染付、赤絵、交趾、金襴手、さらには京都の色絵陶器の先駆けとなった野々村仁清の作風にならった色絵など、多彩な作品を生み出し、永樂家の仕事の幅を大きく広げました。
『河濱支流』の技を継ぐ十七代・永樂善五郎
昭和十九(1944)年に生まれ、平成十(1998)年に永樂家十七代善五郎を襲名した当代は幼少期から絵を描くことを好み、東京藝術大学に進学して日本画を専攻しました。「写生風に見える絵付けを特徴として出したい」と語るように、大皿や壺などの作品には絵画性豊かな意匠が描かれています。
「小さい頃から何を教わるということもなく、焼物師の家に生まれ、代々茶の湯というものに対しての考えがある家に育ち、なじんできたことは、ちょっとマネができることではないし、ありがたいこと」
と語る十七代善五郎は襲名後の個展にて、色絵、金襴手、交趾、染付など、これまでの永樂家歴代の作陶を統合する幅広い作域と多様な技術を駆使した作品を発表しています。
十代了全が拝領した『河濱支流』の金印とは、「史記」のなかにでてくる「舜、河濱に陶す、器みな歪まず(舜という国で、優れた焼物を産する地、河濱に陶を焼いたところ、器はみな歪まなかった)」という記述にちなんだもの、そして「永樂」の銀印は、中国・明の時代に多くの焼き物の優品を焼いた永樂帝に由来しています。優れた焼物を生み出す地の流れを汲む陶家として、時代は移り十七代善五郎に代は替わるともこの「河濱支流」の精神と「永樂」の名は、脈々と受け継がれた陶技で、今日も茶席に華やぎを添える焼物を生み出し続けています。
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