本日ご紹介いたしますお品物は、江戸時代から受け継がれてきた技を誇る有田陶芸の名家、酒井田柿右衛門による煎茶器揃です。濁手(にごしで)を得意とした12代目柿右衛門の作品で、乳白色の素地に藍色で山水画の上絵が施されています。本作品には、純白さを際立たせるため意匠で埋め尽くさず、あえて余白を多めに取るなど、12代目らしい技法が見受けられます。古いお道具ではありますが、保管状況が良好だったため、経年による劣化も最小限で、良い状態のままの貴重なお品物をお譲りいただきました。
12代酒井田柿右衛門について
明治から昭和にかけて活躍した陶芸家です。
1878(明治11)年、佐賀県に11代の長男として生まれました。父に陶芸技術や図案を学び、1917(大正6)年に12代を襲名しています。
12代は、初代柿右衛門が技法を考案するも、素地の調合が難しく、収縮や歪みによる破損が多かったことから採算が合わず、しだいに途絶えていった濁手技法の復元を、1947年ごろより息子である13代とともに目指しました。その結果、1953(昭和28)年に初めて作品として濁手色絵磁器を発表、江戸中期に一度は途絶えた濁手技法は親子の尽力によって再現され、12代逝去8年後の1971(昭和46)年には国の重要無形文化財に指定されています。
柿右衛門様式のやきもの
柿右衛門様式による作品の特徴は、『赤絵』『余白』『濁手』が挙げられます。
赤絵のやきものは赤い色の絵具だけで描かれるのではなく、いろんな色が使われることから色絵、または彩絵と呼ばれることもあります。なかでも、赤い色の発色はいちばん難しく、焼き上がった際にいちばん目立つことから赤絵と呼ばれるのだそうです。
余白はデザインに関係しています。有田の磁器は中国の影響を受けてはじまったもので、デザインも中国風なものが多くみられます。日本独自のデザインが確立していくひとつのポイントがこの『余白』の感覚だったとされ、余白によって際立つ絵付け、それと相互に、絵に活かされた余白が柿右衛門作品を代表する美しさのひとつと言えます。
濁手は乳白手(にゅうはくで)とも呼ばれ、素地、磁肌の色合いのことを指します。米のとぎ汁に似ていることからこう名付けられた濁手は、従来の磁器が青味がかった白であるのにたいし、温かみのある柔らかな乳白色であるだけに、赤絵の発色をさらに際立たせています。濁手の白色は赤絵に最も調和する素地で、花鳥図などを題材とした色絵は、温かみのある柔和な表情で洗練された美しさをみせてくれます。しかしながら、初代が1670年代に確立したこの技法は、複数の陶石を混ぜることから土の調合が難しいなど焼成条件が厳しく、今日の技術をもってしてもその制作には非常に高い技量が必要なのだそうです。
これら『赤絵』『余白』『濁手』の3つを総合した磁器の確立したスタイルは、柿右衛門様式と呼ばれ、ヨーロッパではマイセン窯などで柿右衛門写しが行われたほか、磁器発祥の地である中国の景徳鎮窯にも大きな影響を与えました。
卓越した技術で厳しい焼成条件をクリアしてはじめてもたらされる柿右衛門様式の美。様式確立から350年余、希少の美を造り出す技術とその伝統は、当代15代とその工房で働く職人たちの手によって脈々と継承し続けられています。
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