備前焼を代表する作家の一人としてその名が知られている石井不老は、本名を与佐吉といい、備前焼技術保存資格者であり、岡山県重要無形文化財の指定を受けている陶芸家です。
備前焼といえば、土味をいかした作陶に魅力のある日本の焼物の一つですが、この備前の土を使って宝瓶(取っ手のない急須)を作らせたら右に出る者はいないほど高い評価を受けています。
その中でも心経宝瓶と呼ばれる作品は、宝瓶の胴(表面)に般若心経を彫り込んだ作品で、石井不老は1巻から1000巻まである般若心経全てを1巻ずつ1000個の宝瓶に彫り込み完成させた事で知られており、この作品は十数年かけて制作された大作として今でも高い評価を受けています。
般若心経を宝瓶や茶碗に彫り込んだ作品というのは、多数の作家が手掛けている題材の一つではありますが、石井不老の場合、フォルムや土味の調和、そして魂が宿っているかのような温かさを感じる作品に仕上がっているのが他の作家の作品と違う部分であり、特徴として挙げられます。
また、細工物やろくろの名手として知られており、晩年には赤の茶碗の制作を行っており、秀作が多い事でも知られています。
これは作陶を始めた頃に学んだ兵庫県明石の朝霧焼の技法が用いられており、「不老の赤焼」として完成させた結果、生み出されたものでした。