20世紀を代表する彫刻の巨匠ヘンリー・ムーアの抽象画リトグラフ『腰かけている母と子』です。
戦後に困難を乗り越えて娘が生まれたことをきっかけに、母子の作品が増え生涯のテーマとなりました。
ヘンリー・ムーアの絵画
彫刻で莫大な富を築き、その資金で芸術教育に大きく貢献したことで有名なイギリスのヘンリー・ムーアは、絵画も非常に人気があります。
元々彫刻の構想を練る為にスケッチは行っていましたが、特に絵画が注目を浴びたのは第二次世界大戦の戦争画家の時代です。
戦争画家は政府のイメージ戦略や国民の士気を高める役割であった一方、第一次世界大戦で多くの芸術家が失われたことから、戦火から遠ざけ雇用し続ける救済措置でもありました。
この時 多く描いた題材は、シェルターとして活用されていたロンドン地下鉄や防空壕に避難している人々です。
ヘンリー・ムーア自身も自宅が爆破され、避難した経験があります。
地下にたたずむ戦争被災者の様子を重く暗いトーンで描いており、この地下の素描群は国際的に評価を高めることとなりました。
戦後は意欲的に彫刻作品を作る傍ら版画作品も手掛け、生涯で1000以上の彫刻、700点以上の絵画、約5500点のスケッチや素描を残しています。
ヘンリー・ムーアの版画
版画は元々興味があったようで、ヘンリー・ムーアは16歳の頃にリノカット(リノリウム版画)と呼ばれる樹脂を木版画のように彫る技法を用いて作品を制作しました。
1958年には設立されたばかりの印刷業者カーウェン・スタジオとパートナーシップを結びます。
そしてヘンリー・ムーアの知名度と共に海外での需要が高まったことから、1970年代にはイギリス国外の版画業者や出版社と協力し本格化しました。
版画にされたのは、彫刻のためのスケッチの他、オーデンの詩に触発されて出版した『オーデン詩集』、イギリスの古代遺跡を題材にした『ストーン・ヘンジ』などテーマも様々です。
『エレファント・スカル・アルバム』では象の頭蓋骨を手に入れ、とてつもなく創作意欲を掻き立てられたことから連作33点ものエッチングを制作し、うち1点は『私の自然形状収集の中で、最も感動的なもの』と題する程の熱量でした。
リトグラフとエッチングの作品が多く流通しており、現代でも中古市場で高い人気を誇ります。
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