硯は書道具のなかでも骨董的価値の高い品が頻出し、高値買取りとなる可能性の高いお品物です。
書道に必須の道具となる文房四宝のなかでも、使用により消耗せず、石本来の性質を長く保てることから、長きにわたり人気の高い骨董品の一つとなりました。
その中でも中国産の硯は「唐硯(とうけん)」と呼ばれ珍重されています。
硯に天然石が用いられるようになったのは唐代からで、それ以前は陶器製などが主流でした。
現在、唐硯として知られているものは主に天然石製となり、産地と石質により区別されます。
硯は書道において墨を磨り、筆に墨を含ませるための道具です。
石の表面で墨を磨るには鋒芒(ほうぼう)という微細な凹凸が均一であることと、石の硬さが適度であることが求められ、きめ細やかな石質は墨のおりが良く筆も痛めにくい為、書家に珍重されてきました。
また硯は消耗品ではなく、良質な硯は手入れ次第で百年単位で使用可能であり、古硯の中には多くの来歴を持つものもあります。
実用面での優れた面もさることながら、彫刻に適した石質で様々な装飾が凝らされた硯や、天然石ならではの石紋の美しさは観賞用としても重要な側面を持ちます。
端渓硯(たんけいけん)
歙州硯(きゅうじゅうけん)
澄泥硯(ちょうでいけん)
洮河緑石硯(とうがりょくせきけん)
中国硯のなかでも最上級の石質と名高い端渓硯は、石材の色や紋様によって魚脳凍、蕉葉白、青花、氷紋、石眼などの呼称があり、さらに産出する坑道によって異なる特徴を持ちます。
最高峰の「老坑」をはじめとする「坑仔厳」「麻子坑」は端渓三大名坑と呼ばれ、王朝時代から高級官僚や文人の間で重用されてきました。
端渓硯は唐代に産出が始まり、宋代に産出が増えると最盛期を迎え、最高品質の硯の一大産地として広く知られるようになりました。
しかし清末の混乱期に産出が停止し新規掘削がない時代を経て、老坑の口伝を頼りに再び坑道を探り当て、1962年の麻子坑を皮切りに採掘が再開されます。
1972年に老坑でも本格的に採掘が再開され、20世紀中は麻子坑や坑子巌など多くの坑道で硯石の新規掘削が行われました。
しかし2000年代に硯工場の在庫過多を理由に新規掘削の中止があり、2000年代後半に入ると経済成長に伴う都市化、ならびにレアアースなどと同様地下資源保護の機運などから多くの坑道が閉鎖されてしまいます。
2010年代には紫雲谷は硯石産出としての端渓渓谷ではなく観光区域に指定され、現在も南嶺沙浦地区から原石が出ていますが、従来の坑道は閉鎖が続いています。
端渓硯は広東省肇慶の紫雲谷で、西河を挟んで北嶺と南嶺にそれぞれ複数の坑道から採掘され、坑道ごとに石質が異なることから独立したブランドとなっています。
北嶺…宋坑、緑石巌、梅花坑
南嶺…老坑、麻子坑、坑仔巌、古塔巌、宣徳巌、朝天巌
沙浦…二格青、緑端巌、有洞巌
宋代に開坑し作られ始めた端渓硯は、宋から清朝末期までのものが古端渓とよばれ、更に骨董価値の高い品として珍重されてきました。
端渓石とくに老坑産出品は新端渓であっても一律高い品質を保持していますが、古端渓は美術的価値で上を行くものとひろく認識されています。
江西省婺源県歙渓(ぶげんけんきゅうけい、かつての安徽省)で産出する粘板岩を原料とし、端渓硯と同じく唐代に産出が始まりました。
眉子紋(びしもん)、魚子紋、水波羅紋、金星など多彩な紋をもち鑑賞性にも優れ、端渓硯と並ぶ格の高い硯ですが、採掘期間が短く流通量が少ない傾向にあります。
歙州硯に拘る文人も多く、紋の美しさもあり骨董的価値の非常に高い硯と言えます。
宋代に蘇易簡が記した「文房四宝」が今日でいう文房四宝の基盤となっていますが、ここに記述のある澄泥硯は、現在流通している澄泥硯とは別物になっています。
文献に記載されている特殊な製法で作られた陶製硯と、現在認識される自然石硯がどこで重なり混同されたかは定かでなく、厳密には本物の澄泥硯を「古澄泥」、現代のものを「新澄泥」と呼び区別することもあります。
新澄泥の石色は鱔魚黄、蝦頭紅、蟹殻青、緑豆沙の4色が代表的です。
甘粛省臨洮の洮河で産出していた硯石ですが、北宋中期に一時的に採石されたのみで、伝世品もすくなく幻の名硯となっています。
黄緑または青緑の淡い色が特徴で、なかには緑端と混同されているものもあります。
松花江緑石硯
明代以前に発見され東北吉林省の松花江上流で産出していたものの、硯として世に出るのは清代の康熙帝治世の頃でした。
清末には採石されなくなり、名硯として伝来するものはほとんどが皇帝のものでした。
緑または黄色の石色をベースに縞状の模様が特徴で、観賞硯として人気の高い硯です。
蘭亭硯
王義之による書道の傑作「蘭亭序」から引用した文が彫刻された、装飾的な硯です。
書道愛好家と骨董蒐集家から熱い支持を集める唐硯は、まず贋物でないこと、表記通りの品物であることが大切となり、ご購入時の保証書などがある場合は重要な決め手となります。
古さや煤・ほこりなどの経年による状態はマイナスとならないケースが多い物の、天然石ゆえ落下などの衝撃には弱いので、保管・運搬時はご注意ください。
その他、硯にあわせた硯箱や墨、筆、画仙紙なども併せて査定・お買取り可能な場合があります。