伊兵衛織は静岡県浜松市で15代続いている旧家・高林家で織られている紬です。
「用の美」をコンセプトに作られている絹織物で、使い込む事によって変化する風合いを楽しむ事ができ、厚手でありながら空気を含んでしっとりとした生地はシワが寄ってもそのシワが残らず、一年中単衣で着用する事ができます。
通常の着物の生地と比べると1.5倍ほどの重さがありますが、身に纏うと不思議とその重さを感じる事がありません。
伊兵衛織の特徴は、2匹の蚕が同時に一つの繭を作ってしまったため出荷できない「玉繭」を使い、座繰り(ざぐり)という道具でゆっくりと手作業で紡いで合糸するため、通常の絹糸よりも4倍ほど太く、絹とは思えない節のある均一ではない糸が使われている事です。
その糸の特徴を生かすように遠州の木綿を織るのに使われた手織機を使って、ゆったりと織り上げられています。
伊兵衛織の名称は高林家当主の屋号である「伊兵衛」がその由来となっており、ざざんざ織の流れを汲んでいます。
ざざんざ織も浜松市の名産品として知られており、平松實によって生み出された紬の絹織物です。
当時の高林家当主が柳宗悦と共に民芸運動をすすめており、高林家の敷地内に日本民芸館が設けられ、文化人、茶人などと交流が深く、「用の美」が追求されました。
そんな民芸運動の中で生み出されたのがざざんざ織で、「時代の風に流されない」「売りやすいものは作らない」という信念のもとに伊兵衛織が生み出され、現代まで受け継がれてきました。
しかし、2013年に国産の玉繭の在庫がなくなり、外国の玉繭を使用してしまうと伊兵衛織ではなくなってしまうという思いから、生産が終了してしまいました。
『着物』
『反物』
『帯』