今回お買取したお品物は、勝木憲二郎(かつきけんじろう)が作った船箪笥です。
船箪笥という名前は北前船専用の特殊な箪笥の総称で、本来は懸硯(かけすずり)・帳箱(ちょうばこ)・半櫃(はんがい)などと呼ばれており、船箪笥という呼名は柳宗悦が船箪笥と呼んでいたことが由来とされています。
また、民芸運動の中心人物として知られている柳宗悦は「世界中のどんな家具を引き合いに出されようと断じて恐れることはない。日本には船箪笥がある」と船箪笥を用の美の傑作として高く評価されています。
ちなみに、北前船は陸路の整備がまだ整っていない江戸時代から明治時代にかけて活躍した、航行しながら船主が商品を仕入れ売買によって利益を上げる船のことをいいます。
そんな北前船の船主達は、船箪笥を店の信用と格式を表すものとして大切にしてきました。
しかし、郵便や電信の登場により北前船の稼ぎが減ったことと、日本全国に鉄道が敷設され輸送ルートが陸路へシフトしたことにより消滅していき、同時に船箪笥も作られなくなりました。
勝木憲二郎は昭和53年に職人集団を結成し、現存している船箪笥や資料を基に消滅した船箪笥を復元した第一人者です。
船箪笥は、世界でも例を見ない独特の構造と知恵の塊(かたまり)ともいわれており、証文や現金など大切なものしまう金庫として使われていました。
大切なものを守るために、亀戸(かめど)・ズリ戸・差し戸・懸戸(けんどん)・閂(かんぬき)・落し蓋などとても複雑な構造のからくり仕立てとなっており、全部分解しないとわからない秘密の隠し箱も設け、開錠には全て違う合鍵が3~7本必要になるなど持ち主以外は開けれない仕組みとなっています。
また、船箪笥の全体像は隙間が前面にしかなく、外の部材は硬く丈夫なケヤキを使い、中は収納物を柔らかく包む桐が使われ、船箪笥の前面には重厚な金具で装飾されています。
この気密性と重厚な金具の装飾が船箪笥の大きな特徴を生み出します。
それは、嵐などで海に放り出された時に船箪笥は金具の重さにより、前面が下になることで前面の空気の逃げ場がなくなり、気密性の高い構造でさらに浮力を生み、海に浮かぶようになっています。
これにより、船が沈没しても船箪笥は回収が可能となっています。
お買取した船箪笥に割れがあったのは残念でしたが、鍵が7本あることでより複雑な構造ということが解り、勝木憲二郎の船箪笥ということもあり、十分な評価が付けられ、高価買取となりました。