今回、いわの美術がお買取りしたお品物は雨宮静軒の丸硯です。
雨宮静軒は、江戸時代から続く甲斐雨端硯本家の11代で、硯職人の域を脱した、工芸家としての顔を持ち、中国的な硯の形態に日本的な情感と繊細さを加味しようと下絵を竹内栖鳳に習った事で表現力は広まり、独特の硯世界を作り上げました。
お買取りした雨宮静軒の丸硯は、雨端硯と呼ばれるもので、山梨県で採掘される雨畑石を使って制作される硯ですが雨宮家では、「雨端硯」と表記します。
「雨端硯」は甲斐雨端硯本家の初代である雨官孫右衛門が身延山参詣の途次、富士川支流、早川川原にて黒一色の流石を拾い、これを硯に制作したことで代々硯作りを生業としてきました。
雨宮家の歴史の中で、時の将軍に雨畑石を使った硯を献上したところ、とても好評で「雨端硯」の号を貰い受け、それを製品名にした事によって「雨端硯」は商標登録され、雨宮家で作硯されたもののみに刻される事が許されています。
今回の雨端硯は津軽塗の入れ物付のお品物で、津軽塗には4種類の技法があり、その中の一番ポピュラーな唐塗(からぬり)と呼ばれる独特の複雑な斑点模様をしているのが特徴です。
この模様は塗っては乾かし、そして研ぐという作業を何度も繰り返し、全部で48の工程から生み出される漆器で、1つの作品を完成させるまでに最低でも1ヶ月半~2か月が必要となっています。
使用感の感じられる雨端硯でしたが、お手入れをきちんとしていたおかげで、使用していた割には綺麗な状態でした。
硯は、硯面が命ですので使用したら余分な墨液は拭き取り、流水で洗い、しっかり乾燥させる事が硯を長く使う秘訣です。