前端春斎は石川県出身の塗師が代々襲名している名称で、当代は3代となっております。
初代は山中塗の木地師として活躍しており、その息子が2代目を襲名しました。
山中塗とは石川県加賀市の山中温泉地区で生産されている漆器で、その歴史は天正年間にまで遡ります。
当初は温泉の湯治客相手の土産物として生産されており、生産量が少なかったのですが、同じく漆器の産地である金沢や輪島と比べて、関西などの消費地に近い事から大量生産に踏み切り、現在は全国一の生産量を誇っています。
2代は初代の長男として生まれ、幼い頃から父親の仕事を手伝っており、蒔絵の技術も学び、家業を継ぎました。
技術の更なる向上を目指し、中村宗哲門下の塗師・村田道寛に茶道具形成を学び、加賀蒔絵の技法を保谷美成に学びました。
こうして木地から塗りまでを一貫して行う事ができるようになり、品質の高い漆器を制作できるようになり、大徳寺瑞峯院本堂重要文化財解体修理の古材で棗などを制作する大役を任され、この他にもローマ法王や天皇陛下などに作品を献上しています。
その父親の意志を継いだのが2代の長男で3代目を襲名しており、父親と植松抱民門下の保谷美成師に師事し、技術を学びました。
その後、アメリカのフロリダで蒔絵の技術指導を行うなど世界にも目を向けており、琳派の作風をめざし、古典技法を追求しながら茶道具の制作を中心に作品を発表しています。
重要無形文化財の認定を受けてもおかしくないほどの実力を持っており、今後が注目されている山中塗の塗師の一人です。