今回買取したお品物は川瀬巴水の木版画で、版元は渡邉庄三郎で、東京二十景と呼ばれる二十図シリーズの一つです。
川瀬巴水は東京都港区の生まれで10代から画家を目指し日本画を学びました。
衰退していた浮世絵版画を復興するために新版画を確立したことで知られています。
近代風景版画を代表する作者の一人で日本各地を旅行し、旅先で写生した絵を原画とした版画を多く発表しています。
作風としては美しい日本風景を情緒豊かに表現されています。
25歳の時に父親の家業を継ぎ、組紐職人となりましたが画家になる夢を諦めきれず妹夫婦に商売を任せもう一度チャレンジしました。
一度は鏑木清方の門を叩きますが、スタートが遅いという事で断られ、洋画家の道を進められましたが、再び鏑木清方の元を訪れ、門下となる事を許され、「巴水」の画号を与えられました。
しかし、美人画の先に不安を覚え版画家となる事を決意します。 版画家となったきっかけは、新版画と呼ばれる新しい試みに挑戦していた浮世絵商で版画家でもある版画店店主の渡邊庄三郎との出会いでした。
新版画は刷りムラやバレンの跡をそのままいかし浮世絵の技法を受け継ぐ摺師(すりし)の熟練した技術を活用するという浮世絵の常識を覆すもので、川瀬巴水は全国各地を取材し鋭い視点で風景の光と影の表情を捉え、浮世絵にはない新しい日本風景を生み出しました。
今回買取した作品の彫師でもある渡邉庄三郎の渡辺木版画店は現在では3代目となり銀座で渡辺木版美術画舗として受け継いでいます。
今回買取したお品物は作品の邪魔をしないシンプルな額装に収められておりましたが、額に目立つ割れやキズがあったのは残念ですが、昭和3年頃に描かれた作品で当時の東京のイメージが伝わってくる作品で、雨の後の雰囲気を水たまりに写った風景や、空が明るくなる様が見事に描きだされ、しっかりと版画で表現出来ている事がとても素晴らしいお品物でした。