今回買取したお品物は川瀬巴水の木版画「根津権現の雪」で、版元は渡邉庄三郎です。
こちらは昭和8年の作で、版画に描かれている境内は、森鴎外の小説「青年」にも登場する根津神社です。
根津神社は、古くは根津権現と呼ばれ、日本武尊が創建したと伝えられる由緒ある神社です。将軍徳川家宣が現在の東京都文京区根津に新しく社殿を造営し、他に、楼門、唐門、透塀などが国の重要文化財に指定されています。
ツツジの名所としても知られる根津神社の境内ですが、今回買取の川瀬巴水の木版画は雪の降りしきる冬の景色が描かれています。
川瀬巴水の風景版画は日本の原風景が表現され、どれも心に深く染みわたる作品ばかりです。
川瀬巴水の版画作品は、藍を初めとした鮮やかな色彩感に富み、底抜けに深い味わいのあるその色合いは、他の版画ではみることができないといわれています。
今回買取の「根津権現の雪」も、構図に対するセンスの良さを伺わせる作品で、小雪の降る独特の藍の色味を帯びた雪空と、社殿の朱のコントラストなどが絶妙のバランスをもって描かれた素晴らしい作品でした。
川瀬巴水は衰退した日本の浮世絵版画を復興すべく、新しい浮世絵版画である新版画を確立した人物として知られます。日本的な美しい風景を叙情豊かに表現した川瀬巴水は、「旅情詩人」「昭和の広重」などと呼ばれています。
川瀬巴水は日本国内よりもむしろ海外での評価が高いともいわれ、浮世絵師の葛飾北斎や歌川広重等と並び称される程の人気がある作家です。
いわの美術では、年間多くの川瀬巴水の版画作品の買取を行っており、買取を強化しております。