オマス(OMAS)は、優れた技術者であり芸術家でもあったアルマンド・シモーニが、1925年にイタリアにて設立した高級筆記具メーカーです。
OMASの名は、創業者のアルマンド・シモーニにちなんだOfficina Meccanica Armando Simony = アルマンド・シモーニ工房を意味しています。
イタリアで最も有名な万年筆ブランドといっても過言ではないオマスは、創業者アルマンド・シモーニの卓越した技術力とデザイン力により、次々とヒット製品を生み出しました。
その功績を称えられ、オマスはイタリア王室からイタリア王室騎士勲章(カバリエール)を与えられるまでに至っています。
オマスの創業後間もない1930年代に発売された万年筆に「ドクターズペン(Doctor’s Pen)」があります。ドクターズペンは、当時の裕福な医者をターゲットにし、体温計を内蔵した特異なモデルの万年筆で、後世に残る名品となりました。
オマスが創業した1900年代初頭のヨーロッパは、産業革命によって様々な分野で大量生産が可能となった時代ですが、王侯貴族・ブルジョワジーと庶民との貧富の差はまだまだあり、優れた製品の多くは、一部の富裕層の依頼によって製造されるという時代でした。
こうした時代背景において、富裕層の象徴ともいえる高級腕時計ロレックスから、1929年に「ロレックス・プリンス(通称:ドクターズ・ウォッチ)」という角型の時計が発表されました。
当時としては珍しく秒表示があり、医者が患者の脈をとるのに、このロレックスのドクターズ・ウォッチが大変に重宝され、裕福な医者の間で流行しました。
ロレックスのドクターズ・ウォッチを手にすることができたのは、医者の中でも相当な裕福な名医だけで、この腕時計は脈をとるという医療用ツールとしてだけでなく、富と名医であることの証明でもありました。
ロレックスのドクターズ・ウォッチが流行する中、イタリア・オマスも、医者をターゲットとした、体温計内蔵のドクターズペンを発表しました。オマスのドクターズペンは、富裕層の医者の間で、発売後、瞬く間に話題となり、流行しました。
当時の医者にとっては、オマスのドクターズペンの体温計で、患者の熱を測り、ロレックスのドクターズ・ウォッチで脈をとり、ドクターズペンでカルテを書くといった一連の動作が、当時の裕福な名医のステイタスシンボルでもあったのです。
そんな歴史あるオマスの逸品ドクターズペンが、オマス創業75周年にあたる2000年に、限定復刻された特別生産品を発表しました。
この復刻限定判のドクターズペンは、体温計は内臓されていないものの、イタリア近代アートの巨匠フェデリオ・モンティの彫金細工による、ギリシア神話の伝令神ヘルメスが持つ杖「カドゥケウス」が繊細に彫り込まれた優美なボディを有した優品です。
万年筆の胴軸は魅力的な平べったい独特のフォルムをしており、オマスならではの弾力ある書き味が楽しめる18金ニブが装着されています。2000年の復刻版ドクターズペンは、世界限定1500本と稀少性の高い逸品です。 このドクターズペンは、のちの創業85周年の際にも記念モデルとして2度目の復刻版がつくられるほど、オマスの人気モデルとなっています。
ドクターズペンのほか、ヴェガスやパラゴンなど数々の名品を生み出してきたイタリアの高級筆記具メーカーのオマスですが、2016年2月に廃業となり、業界では落胆と復活を願う声が上がっています。