掛軸とは、書や東洋画を裂や紙で表装して、床の間などに掛けて鑑賞するものです。日本では飛鳥時代より存在したといわれています。
長い間、室内装飾として、また鑑賞の対象として楽しまれてきた掛軸には、水墨画、 墨跡、日本画、古画など様々なものが数多くあります。
現在ではライフスタイルの洋風化とともに、掛軸を飾る床の間のある住宅が少なくなってきてはいますが、一幅で空間を創造することができる掛軸は、季節や行事ごとに掛けかえて楽しまれるものですので、一つのご家庭に数幅、数十幅と掛軸を所蔵されているのも珍しくありません。
絵画や書跡を軸装することを、「表装する」「表具する」といい、台紙の上に紙や布を貼り、その周りに裂地と呼ぶ布を貼り付けて表装されたものが掛軸ですが、その各部にはそれぞれ名称がつけられています。
巻緒
掛物を巻いたあと、ゆるまないように巻いて縛る紐。
掛緒
掛紐ともいい、巻き緒にも使用する平紐で、白・黒・青の三色の糸で組んであるのが一般的。床の間に掛物を掛けるときに、上の方にうちつけられている折釘にこの紐をかけてつるす。
表木(八双)
掛物の上部を固定させるために、半円形の細い木に台紙を巻きつける木のこと。
軸木
掛物の下部を固定させるのと、掛けたときに全体がピンと張るようにするために、やや太い円形の木に台紙を張り付ける木のこと。表具に包まれているので、表面にはみえないが、吊り下げた時のおもりとなる。
軸先
軸木の先端部分に、違う材質でつくられて嵌め込まれている円筒状のもので、象牙・塗り物・鍍金・水晶・陶器・堆朱・唐木・竹などが用いられる。
天地
上下ともいい、掛物の上と下の部分に貼る裂地のこと。天と地は同じ裂地を用いるのが原則。
中廻
中縁ともいい、絵や書の書いてある本紙を取り囲む裂地のこと。
一文字
本紙の上下に貼られた細長い裂地。上にあるものを上一文字、下にあるものを下一文字とも呼ぶ。掛け軸の最も重要なポイントとなる部分で、金襴、銀欄などの上質の裂地が用いられる。
風帯
表木から垂れ下がっている二本の細い裂地のこと。その先の両側には糸をまとめたものがついており、これを露という。驚燕ともいい、中国の掛軸にはみられない日本独自のもの。
本紙
表装する書画そのもののこと。縦長のものを竪物、横長のものを横物という。材質は、絹・絖・紙があり、この本紙に裏打ちの紙をあて、本紙の廻りに表具の裂地を貼りつける。
掛物の寿命は、せいぜい100年程度の耐久年数といわれています。そのため、ある程度の年数が経つと表装しなおさなければならないのですが、その際には、以前用いられていた裂地をそのまま使うのが原則となっているそうです。
また、本紙と台紙は糊で貼り付けられていますが、表装し直す際、剥がすときに本紙がいたまないようにするための特殊な糊が使われています。 掛物を表装し直すときに、書や絵画が傷んでいる場合はあわせて修復を施します。この掛物の表装替えの習慣が、日本の美術品修復技術を発展させてきたともいえます。