水面が紅葉に染まるオランダの運河を光あふれる描写と繊細で色彩豊かに表現した小田切訓の油彩画です。
静かな日常の風景を切り取って描かれた作品ですが、その独特な透明感は見る者を惹きつける魅力を持っています。
1943年北海道オホーツク海沿いの港町、雄武町に生まれた小田切訓は、海岸で見つけた貝殻で絵を描くなど、幼い頃から絵を描くことが好きでした。
明治大学を卒業後、1979年には『日展』の呼称で知られる日本美術展覧会において現代洋画精鋭選抜展で銅賞を果たします。その受賞がきっかけとなり、画家として生きていく決心ができたと本人が後日談として語っています。
オランダはアムステルダムの風景画を好んで描くことで知られた小田切訓は、欧州への取材旅行を重ねながら作品を制作し、その高い写実力がその後も評価され続け、国立新美術館などに1000点を上回る展示品を誇る示現会にて数々の賞を受賞しました。
1984年には初めて個展を開くなどし、大変に活躍した現代美術画家です。
2015年に紺綬褒章を受章した後も洋画壇の第一線で活躍し続け、今後もさらなる活躍が期待されるなか、2021年享年78歳にてお亡くなりになりました。
小田切訓の作品は爽やかな色彩を基調としたものが多く、いずれもリアリティに忠実な表現で描かれています。また、多くは樹木を描くのに用いられたライトグリーンはその独創性から『小田切グリーン』の愛称で親しまれ、自身の内面と対話するかのように個性豊かに描かれています。
使われていた絵筆は通常、油との相性はあまり良くないとされる蒔絵筆で、その特徴は世界で一番細い文字が書けると言われるほど毛先が繊細で柔らかいことです。
作品の柔らかでシャープな描線をみると納得の筆到で、小田切訓にとっては細かい部分の塗り込みなどに適していたのがよく分かります。しかしながら、使いこなすには相当な鍛錬を積んだようで、「細かい線を引くときには息を止めて描く」と自らエピソードを披露したほどでした。
歴史のあるヨーロッパの街並みを繊細で柔らかな描線で仕上げられた作品の美しさは圧巻で、今後の製作にも注目が集まるなか惜しまれつつ亡くなった小田切訓の作品は希少で今後さらに市場で人気がでることは間違いありません。