熊谷守一(クマガイ モリカズ)は97歳の生涯のうち70年を超える画業のなかで、自らの画風を模索し、「モリカズ様式」と呼ばれる単純な線と明快な色彩で表現する作風を完成させました。裕福な家庭の出身ながら、父の急死による実家の破産や自身の芸術家気質から貧乏生活を送り、「権威主義の象徴のような勲章というものが何より嫌い」と、1967年に文化勲章を、1972年には叙勲を辞退して話題になりました。作品をとおした画家の人柄、ものの見方、絵にたいする考え方が今もなお人々の関心を集めます。
熊谷守一は、1880(明治13)年、岐阜県恵那郡(現在の中津川市)に生まれました。
熊谷家は代々地主であり、父は実業家で製糸工場を経営、のちに衆議院議員も務めた地元の名士でした。
小さな頃から絵を描くことを好んだという守一は、息子を商人にしようとする父の反対を押し切り、1900年東京美術学校西洋画科に入学、のちに洋画家として大成した青木繁、和田三造、児島虎次郎、山下新太郎などと同級で、黒田清輝、藤島武二、長原孝太郎らの指導を受けています。
そして守一22歳の時に父が脳卒中で急死、父の死は、事業拡大中であった熊谷家に莫大な借財を残しました。しかし、多額の負債を負った守一は大きな動揺も見せず、制作に励み続けたそうです。
1903(明治36)年、自宅に帰る途中の踏切で鉄道自殺に遭遇、月明かりの下、若い女性の轢死体をスケッチし、後に話題となる『轢死』や『夜』といった作品に昇華させています。
1922年42歳で結婚した守一は、生涯で5人の子宝に恵まれますが、熊谷家の生活は困窮を極め、うち2人の子供を早くに亡くしています。特に早産で生まれた二男に対し、熊谷の想いは強く、わずか4歳で亡くなった我が子の姿を『陽の死んだ日』に残しました。「わずか30分ほどで殴り描くように描いた」と自らが回想したように、激しいタッチのなかに子供を失った悲しみがこもり、見る者に伝わってくる作品です。
1930年代の日本画制作をきっかけに守一の画風は大きく前進します。
日本画で用いた太い線を油彩画でも応用し、1940年頃より赤茶色の太い輪郭線で対象を区切る手法を取り入れるようになりました。また、いくつかの方法を試みた上で、輪郭線を赤い線で描き、その線を取り残す方法、いわゆる「モリカズ様式」と呼ばれる方法を完成させますが、この時守一は既に70歳を超えていました。
多くの時間を費やして確立させたこの画風は、現在の日本美術史のなかでも類例のないもので、これまで日本美術史に位置づけることが困難な状態が長く続いていました。
しかしながら、近年になり、日本画表現を油彩画に取り入れ、西洋絵画とは一線を画した日本絵画のひとつの表現として位置づけられるようになったことにより、ようやく熊谷守一作品も国内美術史における位置づけが明確なものとなったのです。
長身にひげを生やし、極貧を貫いた生活、とくに76歳で体を壊してからは自宅を離れることがなくなった守一は、その暮しぶりから度々「超俗の人」とか「画壇の仙人」などと称されました。しかし、本人はそう呼ばれることを嫌い、「わたしは仙人なんかじゃない、当たり前の人間です」と答えています。
晩年、守一の作品づくりに欠かせないものに、日課であった自宅庭の散策があります。時には地面に寝そべって日々成長する草花やそこに集う虫たちを、時間をかけて観察し、「毎日新鮮な驚きを感じる」と語った守一は、そういった季節の色彩を背景に、生き生きとした表現でたくさんの作品を残しました。
モリカズ様式を確立して以降、精力的に作品を発表し、多い年には油彩画を五十点ほど制作していましたが、最晩年の数年間は制作数も減っていきます。
絶筆の油彩画となった『アゲ羽蝶』は、守一が最後に愛でたという庭の花のフシグロセンノウとクロアゲハを、96歳という高齢を感じさせない力量で表現した生命の力強さを感じる作品です。
亡くなる前年の1976年にはこの一点のみを残し、翌77年、守一は惜しまれながら97歳でその生涯を閉じました。
本作品『にわとり』は制作時の90歳という年齢から、守一が自宅で飼っていた鶏を描いた作品と思われます。作品には画面構成を意識してスケッチが用意されることが多かったそうですが、この作品は墨絵の線による表現で、大きく成長した鶏と逃がすまいと懸命に抱える幼子の愛くるしい一瞬の表情をよく捉えています。
70年という画歴をとおして多くの作品を世に送りだした熊谷守一には今日でもたくさんの根強いファンがいて、その作品を探しています。ご処分にお困りの作品や、お譲りいただける作品をお持ちではないでしょうか。
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