今回は、仏教美術のひとつである仏教絵画のうち、来迎図について説明します。
来迎(らいこう・らいごう)とは、臨終のとき,仏陀や菩薩が浄土の世界から迎えに来ることを意味しています。詳しくいえば、仏教のうちの浄土教で、紫雲に乗った阿弥陀如来が、臨終に際した往生者を極楽浄土に迎えるために、観音菩薩・勢至菩薩を脇侍に、その他の菩薩や、天人を引き連れてやってくることをさします。 そして、この来迎の様子を描いた仏画を来迎図といい、雲に乗って飛来する図様が一般的な形式です。
来迎図は、平安時代中期に、天台宗の僧が「往生要集」で極楽往生を説いてから、描かれはじめ、平安時代後期に大きく発展、鎌倉時代に隆盛しました。
「阿弥陀如来を信じていれば、臨終に際して阿弥陀如来が極楽に導いてくれる」という「阿弥陀信仰」が盛んになり、来迎図が多く描かれるようになりました。
来迎図の鑑賞者は貴族や武家、信者等で、その手法はやまと絵が中心です。金銀箔や高価な画材がふんだんに使われ、平安時代までは阿弥陀如来等の描かれ方は、坐像が中心でしたが、鎌倉時代より立像が中心となっています。
阿弥陀如来が諸聖衆を従えて、来迎する情景を描き出した絵画です。
来迎印を結んで後光を発し、蓮華に座った正面向きの阿弥陀如来が、威風堂々とお迎えにくる姿が描かれています。阿弥陀如来の周囲に三体の僧形と、供花を捧げる二本の供養菩薩が控えています。
阿弥陀如来の左脇侍として、死者を載せるための蓮台を持っているのが観音菩薩、右脇侍として合掌しているのが、勢至菩薩です。どちらも連座に座っています。
右上に描かれた楽器を持った明るい表情の供養菩薩達が、極楽浄土の楽しさを表しています。
海原と懸崖(地上の風景)を眼下に、一行は白雲の上に描かれています。
高野山霊宝館収蔵の阿弥陀聖衆来迎図(国宝)は、往生者を迎えにくる情景を三幅からなる大画面に描いた来迎図の傑作として有名です。
右下隈に描かれている往生者を迎えるため、阿弥陀如来と二十五菩薩が、急峻な山頂越しに飛雲に乗って降下するさまを描いた来迎図です。右下には、迎えを待つ臨終者が描かれています。 先導する観音・勢至菩薩、音楽を演奏する音声菩薩等が阿弥陀如来とともに臨終する往生者を迎えに行く姿を現しており、禅系の姿勢は急いでいることを表しています。
円光を発し、踏割蓮華に立つ阿弥陀如来が横向きで描かれています。中空に浮かぶ浄土教建築の宝楼閣によって、西方極楽浄土が表されています。
一行を乗せた金雲は、急な山並みを駆け下るように描かれることから、早来迎とも呼ばれます。
その他来迎図の形式には、”九品(生前の行いに応じて振り分けらえるという極楽往生の九つの階位)”それぞれの来迎を描き分ける「九品来迎図」、阿弥陀如来と観音・勢至菩薩の阿弥陀三尊が来迎する様子を描いた「阿弥陀三尊来迎図」、山の向こうに半身の大きな阿弥陀如来が描かれた「山越阿弥陀図」などがあります。