写真のお品物は、五世秦蔵六の茶托です。
秦蔵六は江戸末期から6代続く鋳金・金工家で、京都を拠点に活躍しています。
鉄瓶をはじめ五金の多彩な茶道具や煎茶道具を生み出し、中国古代の青銅器の模作で知られています。
五世秦蔵六は鍍金銅の花瓶や香炉、錫の茶托や茶入れなど煎茶道具を遺しています。
初代秦蔵六は幼名を米蔵といい、1823年に山城国に生まれました。
22歳の時京都へのぼり、鉄瓶で有名な2代龍文堂に弟子入りし、鋳造技術を学び独立し金工家となりました。
鉄瓶など正統派な金工作品の制作に加え、中国古代殷周から漢にかけての古銅器を研究し、蝋型鋳造で青銅器の模作を行った作品も知られています。
爵型の酒器、饕餮文(とうてつもん)など、古来伝統の形式を踏襲しながら、鍍金の花瓶や香炉など自らの創作に昇華していき、代々受け継がれる秦蔵六の銅器の系譜を生み出しました。
当世一大の金工家となり活躍目覚ましく、孝明天王の銅印、徳川慶喜の征夷大将軍黄金印の鋳造に抜擢されています。
江戸から明治へ時代が遷っても活躍は続き、1873年に宮内省の命をうけて明治天皇の御璽(ぎょじ)、大日本帝国の国璽を鋳造しました。
二世秦蔵六は生没年不詳となっていますが、三世・四世の師であり、作品に記された年と年齢から1854年頃の生まれと考えられています。
御下賜品としての銀瓶や、同時代の富岡鉄斎の詩画を彫刻した逸品などが遺されています。
三世秦蔵六は二世の三男であり1882年に出生、二代のもとで鋳金技術を学びます。
阿古陀形の銀瓶などの作品の人気が高く、初代から続く古代青銅器に倣った作品も制作しています。
四世秦蔵六は1898年に生まれ二世に師事し、初代の始めた中国古代青銅器の模作を、より完成度の高い表現へ導く傑作を残しています。
なかでも中国清代の宮廷で所蔵された美術品のうち、名品を揃えた図録「西清古鑑」所載の周代犠耳饕餮紋直卣(ゆう)を再現した逸品や、方鼎を日本の香炉にアレンジした作品が残されています。
卓越した技量で技術保存資格者に指定され、京都金属工芸会会長も務めました。
五代秦蔵六は生没年が不詳ですが父・四代のもとで学び、饕餮文の古代青銅器風の作品のほか、鍍金の創作銅器の人気が高い作家です。
中国の器に特有な三脚の青銅香炉や、錫や銀の茶托など、煎茶道の実用的な作品が多くみられます。
当代である六代秦蔵六は1952年に生まれ、大学卒業後に父・五代のもとで修業し、伝統の鋳金技術を学びました。
先代からの鍍金銅器や純錫の茶托に銘品が多く、伝統の鋳金工芸を守り伝えながら、京都金属工芸会会長を務めています。
140年余りにわたる秦蔵六代々の品物は多岐にわたり、それぞれの代に特徴的な作品がみられます。
中古美術市場でとくに人気が高く、高額でのお取引が多いお品物には初代による鉄瓶、二代の漢詩や絵が彫刻された純銀瓶・湯沸、三代・四代による鉄瓶・純銀瓶などが挙げられます。
また秦蔵六のお家芸である中国古代青銅器の要素が見られる作品、饕餮文や龍文は随一の完成度を誇り、高く評価されています。
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