写真のお品物は、以前いわの美術でお買取り致しました、藤本東一良の肉筆油彩画「納沙布岬」です。
藤本東一良は海辺の風景にとくに才覚を表し、日本とヨーロッパのそれぞれの空気感を掴んだ様々な土地の風景画を残しています。
藤本東一良(ふじもと とういちりょう)は1913年に静岡県伊豆下田にて生まれ、生後まもなく大阪へ転居し代々播州赤穂で回船業を営む家柄の下育ちました。
不自由のない幼少期を過ごした港町は、瀬戸内海に面し穏やかな明るい海が美しく風景画を描くには最高の場所で、叔父の平井正年も画家であったことなどから次第に絵の道を志します。
旧制中学在学中から鹿子木孟郎の画塾へ通い、渡欧経験豊富な鹿子木から石膏デッサンを学びながらヨーロッパのアカデミック美術の薫陶を受け、また赤松麟作の洋画研究所へも通い、若年から意欲的に修錬を重ねました。
成人すると上京し、まず川端美術学校へ入り寺内萬治郎、小林萬吾に学び、1935年に東京美術学校(現東京芸大)へ入学すると藤島武二の教室で学びます。
美校在学中の1937年にポール・ゴーギャンへの憧れから当時日本の統治領であった南洋諸島に写生旅行へ出かけ、生まれ育った本土とは違う強い陽光や透明な海、南方のコントラストの強い景色に強く惹かれ海洋画の制作を始めます。
帰国すると第26回光風会に「水夫M君」「機関車の人」を出品し初入選となり、第3回海洋美術展では「天測」で海軍協力章を受章し、旺盛な制作とともに頭角を表します。
1940年に東京美術学校を卒業し、同年第4回海洋美術展にて「ウラカス島を望む」を出品すると朝日新聞社賞を受賞しました。
第二次世界大戦中も絵画制作と光風会への出品を続けていましたが1939年に南方への従軍を命ぜられ、台湾にてポスター原画政策などを手掛け、敗戦とともに復員します。
1946年の第一回日展で「赤い服」が入選となり、同年秋の第二回日展でも「室内」で特選受賞となります。
光風会の会員となり、また翌年も日展で連続して特選となるなど美術界で地位を築きながら、南洋美術協会の設立など海洋画にまつわる活動に没頭し、1954年に初めてパリを訪れます。
2年弱のフランス滞在の間、アカデミー・グラン・ショーミエールで学びながら、ベルギーやオランダ、スイス、イタリア、スペインを旅行し帰国後に風景を描いています。
1950年代のフランス美術界は、明治から大正にかけ日本に輸入されたアカデミズム美術に代わりアンフォルメルなどの抽象絵画が席巻していたものの、藤本東一良は自らの追い求める風景画に重きを置き、自らの表現を見失わずにカーニュやサントロペ、ニース、カンヌ、マルセイユなど南仏の海辺の街に取材し、南仏の明るい陽光と海を主題に選び取りました。
写生旅行には必ずコンパスや湿度計などを持ち歩き、天候の移ろいや雲の変化を感じ取りながら、写真ではなく印象を自らの手でスケッチブックに写し、画家の目を通した風景を制作する古き良き時代の画家と言えます。
日本へ帰国すると1960年に日展会員、1966年には日展評議員、1972年に光風会理事と順当に美術界の重要人物として歩を進め、1973年から連続してほぼ毎年フランスを訪れる生活を続けながら明快な色調で多くのフランスの風景を油彩画に残しています。
1979年にはソビエトにも旅行し、1981年に「五月のコート・ダジュール」で文部大臣賞を獲得。
翌年に1979年からの2年間の作品を展示する個展を日動サロンで開催し、以降3年おきに定期開催し、東京銀座松屋での新作油彩画展とともに晩年の制作活動の基本となりました。
1989年に小山敬三賞の受賞を記念して大規模な回顧展を日本橋高島屋にて開催し、1994年に第25回日展に出品した「展望台のユーカリ」で芸術院賞・恩賜賞を受賞し日本芸術院会員となり晩年まで人気画家として活躍しながら1998年に逝去しました。
写真の作品は北海道の最東端に位置する納沙布岬の風景で、空と海とその土地その時間の空気間をよく掴むことができた藤本東一良によって、涼しい夏の空と海が表されています。
根室の夏は本土は大きく異なり、岬の陸地は青々と緑に覆われているものの、望む空は薄くくもり、波立つ海面に寂寥とした風情を感じさせます。
今回お買取りしましたこちらの作品は、サイズは小さいものの彫りの美しい額装となっており、また裏面に作者による署名とタイトルの記載があり、高評価でのお買取りとなりました。
絵画のお買取りの際には絵の状態と並び絵のサイズ、モチーフ、額装の状態、そして画廊などでご購入時に添付された保証書の有無が重要なポイントとなってまいります。
いわの美術では美術品・骨董品を中心に幅広くお買取りしており、藤本東一良の絵画作品も過去にお買取り実績がございます。
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