輪島塗の人間国宝 前大峰は、沈金(ちんきん)という技法を進化させ、素朴であった輪島塗の表現の幅を広げ芸術性を高めた改革者です。
前 大峰 | まえ たいほう |
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1890年~1977年 | |
本名 | 前 得二 (まえ とくじ) |
受章・認定 | 1955年 重要無形文化財保持者(人間国宝) |
1964年 紫綬褒章 | |
1966年 勲四等瑞宝章 | |
1975年 勲三等瑞宝章 |
前大峰は石川県輪島市に生まれます。
輪島市は湿気が多く、漆を厚く重ねることが出来る気候であることから漆芸の輪島塗が盛んであり、また同じ石川県の金沢は日本一の金箔の産地であることから、輪島塗は沈金で大きな発展を遂げました。
漆芸の道に進んだ前大峰は、沈金佐助と呼ばれた名工・三代橋本佐助に師事し沈金技術を学び、また絵師であった牧一友からは絵画や図案を学びます。
その後23歳で独立した前大峰は、漆芸の加飾法である沈金に新たな技術を加え、動きや立体感のある表現豊かな情景を表現しました。
石川県立美術館が所蔵する『沈金猫文 けはひ 飾筥』(1963年)は猫の毛のフワフワ感を見事に表現しています。
数々の展覧会で受賞を重ね、人間国宝の制度ができた1955年に重要無形文化財保持者に認定されました。
前大峰は近年の技術の発達によって大量生産された物ではなく、手仕事のよさと暖かさで人々の生活に潤いと安らぎを与えたい、と作品の制作に励んでいたそうです。
前大峰の技術と情熱は養子で同じく人間国宝である前史雄に受け継がれ、現在も精力的に作品を作り続けています。
沈金は江戸中期から始まった輪島の伝統的な蒔絵の技法で、漆黒の漆に鮮やかな金が映える装飾です。
乾燥後硬化した漆塗り面に、ノミや鏨(たがね)で模様を彫り込み、そこに金粉や金箔を刷り込みます。
前大峰は従来の線彫りに加えて、点彫りや片切彫りなどの多彩な刀法を開発しました。
それにより平面的であった輪島塗は、陰影や奥行き、ぼかしなどの表現ができるようになり、華やかで繊細な芸術へと進化を遂げます。
今回お買取した黒塗硯箱も樫鳥の羽毛や躍動感、栗の実、葉など水墨画のような繊細さと美しさを沈金で表現している前大峰らしい作品です。
前大峰の漆工作品は、保存状態とその作品の出来によって価格が変動します。
立体的な描写は沈金の点彫りで、時間と手間がかかる作業であり、養子の前史雄が根をつめて仕事をしていると前大峰が「作品は休めておけ」と根をつめすぎないように促したこともあったそうです。
それだけに点彫りが多く美しい作品は価格が上がる傾向があります。
付属品も査定額に影響しますので、鑑定書・保証書・栞・共布など、特に共箱と呼ばれる木箱があれば更に査定額が上がるので一緒にお出し下さい。
まだご売却をお考えでない場合は、より良い状態を保つ為に日光の当たらない状態で保存して下さい。
漆は紫外線に弱く長時間日光に当たると変色してしまいます。
また、長期間の極端な乾燥も漆面が痩せたり木地の変形を招きますのでご注意下さい。