写真のお品物は、いわの美術でお買取りいたしました、西村龍介の肉筆油彩画「城影」です。
西村龍介は日本画で画業をスタートし、30代で洋画へ転向した異色の経歴を持つ画家で、写真のお品物のようにヨーロッパの古城をモチーフにした作品が特に人気となっています。
和と洋の感性と技術を併せ持ち、日本画的な静謐な構図のなかに、遠近法で捉えた西洋建築を配する独特のセンスを持ち、また色彩についても彩度を抑えた繊細な感覚が魅力を放っています。
西村龍介(にしむら りゅうすけ)は1920年2月、山口県小野田市にて生まれます。
6歳で小野田尋常小学校に入学し、3年生の時に初めて描いた水彩画を教師に褒められてから絵が大好きな少年となり、全国児童画展などに水彩画を出品しすべてで受賞を重ねました。
この頃から既に将来は画家になることを意識し始め、尋常小学校卒業の前年に両親と死別する災難にあっても志を忘れず、卒業後の翌1936年に初めて上京しました。
18歳となった1938年に日本美術学校日本画科に入学すると太田聴雨、川崎小虎、矢沢弦月に学び、デッサンの指導を受けた林武からは「君の木炭には色がある」と言われ才能を見出されていきます。
1940年に卒業制作の「T子の像」が川崎小虎から最高得点の評価を受けるものの、激化する太平洋戦争のために卒業と同時に出征となりました。
5年後の東京大空襲で下宿に保管していたそれまでの作品を焼死し、8月に特攻隊員となりますが無事のまま終戦を迎え、当月内に山口市に復員します。
終戦翌年は山口市内の瑠璃光寺の一室を画室兼居所として借り住み、方丈の木村智道師に禅を学び静かに生活を取り戻す中、旧制山口高等学校の校長であった長崎太郎と親交を持ちます。
翌1947年には早くも初の個展開催を成し遂げ、山口市の八木百貨店にて日本画18点を出品し、山口市展・県展を創立するなど精力的に活動していきます。
1949年に長崎太郎が京都市立芸術専門学校長に就任すると、招かれて京都へ移住し京都市立美術大学日本画部研究科に入学しますが、翌年に退学し上京すると、さらに翌1951年に油絵に転向し、雅号を龍介と改めました。
洋画への転向から3年、1954年の第39回二科展に「河岸」を出品すると初入選となり、1956年の第41回二科展でも「月のある風景」「鳥と植物」が特待賞を受賞し、画壇で躍進する契機となります。
以降59歳まで毎年欠かさず二科展に出品し、1957年に二科会会友となり、1960年に同会員、1966年に同会評議員、1975年に同会委員長に就任し3年間要職を務めました。
二科会を中心に活躍を続けながら、風景画のための取材として1964年のフランス、イタリア、スペ
イン、ベルギーを巡る旅行を皮切りに、パリには複数回滞在し、デンマーク、ポルトガル、モロッコ、ユーゴスラビア、アドリア海周辺やオランダ、スイス、ドイツなど広範囲にわたり風景を吸収してきました。
写真のお品物「城影」はこれらの渡欧のあとに制作された作品で、その後もアルザス、ノルマンディー、ブルターニュ、ロワール、アヴェロン地方やその他フランスの田舎町など西村龍介の得意とする古城の多くある地域を旅行し、作品の霊感を得ていきます。
二科会委員長在職中の多忙な時期にも南フランスから北イタリアの、シャモニーやヴェネツィアなど名勝へ足を運び、委員長職を辞任したのちデンマーク、ノルウェー、スウェーデンの北欧3か国とポーランド、チェコスロバキアの東欧2か国へ範囲を広げ見分を広めました。
ヨーロッパへの取材旅行を精力的に行いながら、1967年にはフランスのサロン・ドートンヌ展に「風景」を出品して海外への出展も始め、二科会コペンハーゲン展や二科会ポルトガル展にも出品しました。
1971年には銀座松屋で個展を開催し、同年の二科展では内閣総理大臣賞を受賞しています。
二科展を退いてからは銀座のフジヰ画廊などでの多数の個展開催とともに、現代作家美術展など新進の公募展に参加し、1989年には長年にわたり独自の油彩表現を円熟の域に高めた功績を称えられ芸術選奨文部大臣賞を受賞します。
また皇太子殿下ご成婚にかかる記念作品制作を受託し学習院功労賞を授与されています。
1997年には喜寿を記念して開催された回顧展は東京八重洲の大丸ミュージアムと大阪心斎橋と下関の大丸を巡回し、これまでの活躍とファン層の厚さが伺える大規模なものでした。
2000年に二科会を退会してからも個展の開催を続け、2005年に85歳で永眠した後も作品の人気は褪せずファンに愛されています。
西村隆介の作品はフランスのロワール地方やドイツ、ベルギーなどの古城を題材にした作品が人気となっており、多くは城を画面の中心に据えて湖沼や森を周囲に配した簡潔な構図となっています。
西村龍介は同タイトルの連作を多く制作しいているものもあり、「水辺の城」は特に中古市場でも多数のお取引がみられます。
写真のお品物「城影」は1972年の円熟期に二科展に出品されたものと同タイトルで、西村龍介が得意とする湖畔の古城が誌的な静謐さのなかに佇む逸品です。
西村龍介の油彩画の筆致は独特の点描を重ねたような描き方が特徴で、複雑な色彩表現の一端を担っています。
また近接して見ると、筆致の細やかさ・粗さによる遠近の表現にも長けており、日本画と洋画のさまざまな技術を独自に織り交ぜ昇華した西村龍介ならではの画面となっています。
いわの美術では美術品・骨董品を中心にお買取りを行っております。ご自宅やご実家のお片付け、蔵や倉庫の整理でご売却をお考えの西村龍介作品がございましたら、ぜひ、いわの美術へご一報くださいませ。
買い取り実績豊富な専門の査定員が拝見し、市場を鑑みた最高値をご提案できるよう尽力いたします。
絵画のお買取りの際は、画面の傷等の有無など状態に加え、画廊や個展でご購入された際の証明書の有無、共箱、額装の状態なども加味することとなります。
また西村龍介の作品は、6号以上の大きいサイズの作品がとくに高値でお取引される例が多く、今回の写真のお品物もF10号であったためプラスの評価となり、高値でのお買取りにつながりました。
お買取り査定のお申し込みは、お電話・メール・LINEにて受付しております。メール・LINEにてお写真をお送りいただきますとオンライン無料査定が可能となります。混雑時には順次の回答とさせていただきます旨ご承知おき頂けますと幸いです。
お客様からのご連絡をお待ちしております。