丸山直文の絵画は鮮やかでみずみずしい浮遊感のある画風で「ステイニング」と呼ばれる、アクリル絵具の滲み・ぼかし・止めを活かした技法によって描かれています。
丸山は自身の画業について「抽象表現主義についてはBゼミと呼ばれる現代アートを学習する会で学んでいた。その際ちょうど文化服装学園に在学しており、課題で服を作ることに取り組みつつ絵を描いていて服の布地が近くに大量にあったことがステイニングという技法を追求するきっかけになった」とインタビューで語っています。
丸山は、具体的なモチーフをリアルに描くことに主眼をおかず、あくまでキャンバスの布地や紙という「画面」に対する絵具の広げられ方や置かれ方がもたらす効果としての「地と図」に着眼点を置いた抽象表現主義絵画の考え方をベースにしながら、身の回りのもののフォルムを効果的に利用して画面空間を拡がりのあるものにしていきました。
丸山は水彩と鉛筆によるドローイングを沢山描き、失敗が許されないステイニングのための習作や創作のための実験を欠かしません。そのためドローイングのみの展示も行ったことがあり「丸山直文のドローイングを一度でも飾ってみたい」という現代美術ファンが今もなお多い作家であることから、いわの美術が注目する作家の一人です。
下地がないキャンバス地に絵具を滲み込ませる技法であった「ステイニング」はもともと、戦後アメリカの抽象表現主義の画家たちの間では「カラーフィールドペインティング」の技法としてヘレン・フランケン・サーラ―により発案されました。滲み・ぼかし等と聞くと、東洋の水墨画を連想しがちになりますが、水墨画に見られる山紫水明を表現する目的と「ステイニング」の目的は、意味合いが違っています。カラーフィールドペインティングにおける「ステイニング」で描かれた大画面の絵画は四角い画面そのものが、鑑賞者の身体と視覚を色彩で包み込む「フィールド」の力を持つととらえ、具体的なものが見えるように描かれた「絵らしい絵」の意味合いを、絵画が果たす役割に対する常識から少しずらして、絵画における美学と表現理論の幅を押し広げようとするために用いられてきました。
1950年代 アメリカでは、アートワールドと呼ばれる、影響力の強い画家や発言力が強い美術批評家や研究者、学芸員、美術市場を取り仕切る関係者や有力なコレクターたちで構成された共同体において、抽象表現主義という分類が考案されました。キャンバスの四角い画面全体を「平板な絵の具による層が織りなした空間の入り口」として成立させるため、ステイニングやいわゆるベタ塗、ジャクソン・ポロックのように絵具をぶちまけて描くような技法の絵画を作る画家の一派が出現しました。そのことについてクレメント・グリーンバーグなどが絵画の美学的な批評展開に用いたことが、学術界と市場において抽象表現主義の絵画が芸術作品として価値を付けられる契機になったのです。この事から後にキャンバスの形や大きさの模索がされ、「絵の具」の部分にあたる素材の幅を広げた作品も作られました。作品の展示方法の在り方と美学的な理論との関連付けが盛んに行われ「ミクストメディア」という概念が生まれます。抽象表現主義の登場は、今では「なんでもあり」といわれるほど多様化した現代アートが枝分かれする始まりとして、たいへん重要な転機だったといえるでしょう。
抽象表現主義の代表的な画家としては
ヘレン・フランケン・サーラ―
マーク・ロスコ
モーリス・ルイス
バーネット・ニューマン
フランク・ステラ
ジャクソン・ポロック
などがおり、これらの作家は日本では川村記念美術館や東京都現代美術館において収蔵されております。機会はなかなか少ないのですが、カラーフィールドペインティングの特別展などを鑑賞すると、日本の画家のアトリエ環境では生まれにくい発想を伴って制作された、非常に大きな画面の作品を国内でも堪能することができます。
抽象表現主義は、日本の現代美術の作家にも大きな影響を及ぼし、丸山直文より世代が上の日本人作家の中にも「ステイニング」を効果的に用いた大画面の作品を打ち出した松本陽子などが、カラーフィールドペインティングの要素を取り入れたと思われる表現を発表しています。
日本人の画家の作品は抽象であっても抑揚が効いて深い空間を感じさせる作品が多いことが特徴です。丸山は奈良美智と同時期にドイツへ文部科学省から新進芸術家の在外派遣助成金を受け取っての渡航を経験しており、現代アートシーンの重要な拠点であるベルリンの現代美術作家達からも影響を受けています。
1964年 新潟に生まれる
1990年 Bゼミスクーリングシステム修了。
1992年「現代美術への視点:形象~はざまに」東京国立近代美術館、国立国際美術館
1994年「第8回インド・トリエンナーレ」National Academy of Art・ニューデリー
1996年 文化庁芸術家在外研修員
1998年 ポーラ美術館振興財団奨学生としてベルリンに滞在
1999年「ひそやかなラディカリズム」東京都現代美術館
2003年「時の温度 -大きな水-」個展。Shugo Arts
2007年「水の情景モネ、大観から現代へ」横浜美術館
2008年「丸山直文展 - 後ろの正面 - 」目黒区美術館
2009年 芸術選奨新人賞受賞。
東京国立近代美術館
川口現代美術館
北九州市立美術館
いわき市立美術館
東京都現代美術館
独立行政法人国際交流基金(Japan Foundation)
国立国際美術館
高松市立美術館
新潟県立万代島美術館
北海道立釧路芸術館
金沢21世紀美術館
豊田市美術館