写真のお品は15代楽吉左衛門による黒楽茶碗です。
楽焼は桃山時代に始まり、450年もの長い間、楽家でのみ伝承されてきた特異な焼き物です。
茶の湯道具のみを作り続け、独特な茶碗の景色は侘び茶の美意識を体現し、骨董茶道具を代表する名陶となりました。
楽家は代々の当主が楽吉左衛門を名乗り、15代楽吉左衛門は1981年に襲名、2019年に16代に家督を譲り隠居となり、楽直入(らくじきにゅう)を名乗っています。
今回ご紹介の15代楽吉左衛門の黒楽茶碗は、一見正統派の茶陶と思える黒楽ですが、背景には15代の哲学が込められています。
楽家初代の長次郎は父・阿米也(あめや)と母・比丘尼の間に生まれ、京都の地で黒釉の茶碗の作陶で優れた技量を発揮し、千利休に見いだされました。
長次郎の焼き物は中世日本や李氏朝鮮のものとも異なり、近年の研究で中国明時代の三彩釉(華南三彩)にルーツがあると分かりました。
長次郎の父が中国または朝鮮の出身であるため、長次郎も三彩釉の焼き物の技法を獲得したと考えられています。
轆轤を使わず手づくねと箆を用いて荒く削りだす独特な造形は、趣のある茶碗として豊臣秀吉と同じく聚楽第に住まう千利休に重用されました。
そのため「聚楽第茶碗」の呼称が生まれ、長次郎の没後に聚楽第の「楽」の字を取った印を与えられ、楽家の名称が誕生しました。
楽家は茶碗師として代々利休好みを誂える千家の職方となり、江戸時代には茶の湯の大成期を迎え、1840年の利休250年忌の茶会の記録では現在の千家十職とほぼ同様になります。
茶碗師・楽吉左衛門
袋師・土田友湖
釜師・大西清右衛門
指物師・駒沢利齋
柄杓師・黒田正玄
鋳物師・中川浄益
表具師・奥村吉兵衛
一閑張師・飛来一閑
土風炉師・西村善五郎(現・永楽善五郎)
塗師・中村宗哲
楽焼は轆轤を使わず「手づくね」という独自技法で成形されます。
紐づくりや手練りなど手びねりの手法とも異なり、厚めの円形状にした土を少しずつ周囲から立ち起こし、箆で削る場合もあり、削り跡も茶碗の景色とします。
手づくねの技法は一子相伝で伝えられ、歴代の当主は長次郎を意識し伝統に倣いながらも、新たな表現に挑戦し続けてきました。
釉薬の調合など明文化して残さない部分は各々の研究に委ねられ、それぞれの特徴を色濃いものにしてきました。
また楽焼は当初から茶陶に特化し、皿や酒器など日常の器を作ることがない点でも、他の焼き物と大きく異なっています。
長次郎の創始した黒楽・赤楽を主流として、代ごとに釉薬や成形、焼成方法に個性が発揮されています。
14代の長男として1949年に京都で生まれ、青年期まで自らの環境に当たり前に存在する茶陶と茶道に懐疑的な視点で過ごしました。
父と同じように東京芸術大学で彫刻を専攻し、卒業後はイタリアのローマ・アカデミアへ留学し、1973年から2年間イタリアに滞在します。
在伊中に日本的なものを再確認し、イタリアに居ながら日本の茶道を愛好する人々と出会ったことを契機に、茶道の本質や茶碗のもつ温かい魅力に改めて気づきました。
陶芸家となる意思を確たるものにして帰国後に本格的に作陶を開始し、父の指導のもと京都市立工業試験所で釉薬を研究します。
1980年に父が急逝すると、翌年15代楽吉左衛門を襲名し、1983年に満を持して「襲名記念初個展」を東京と京都の高島屋で開催しました。
当主となり楽家の伝統と革新性を併せ持つ作陶が大きく開花し、1985年には「現代作陶 楽吉左衛門」を京都の茶道資料館で開催します。
1990年の個展「天問」では、6年をかけて制作した前衛的な茶陶を披露し、伝統と革新を共存させる守破離の精神を、作品に昇華して見せることに成功します。
ここで展示した品は「焼貫(やきぬき)」など楽焼の定番ではない技法が用いられ、評判は賛否両論でしたが、革新は論争がつきものと15代楽吉左衛門はそれを受け入れました。
そこには長次郎が楽焼を創始した時、黒楽や赤楽は当時の一般から大きく離れ、楽焼は創始期から革新の魂をもっているという15代楽吉左衛門の解釈があります。
楽焼の継承者として広く支持を得て1992年に日本陶磁協会金賞を受賞し、1997年からは楽焼を正式に日本から海外へ紹介する初めての試みとして、「RAKU, A Dynasty Japanese Ceramists」展をイタリア・フランス・オランダで開催します。
これ以前にも1960年頃にアメリカの陶芸家ポール・ソードナーによって、日本の楽焼焼成方法から着想を得た、海外流のRAKUが流布していました。
これには低火度焼成の後おが屑に入れ燻す工程があり、正統な楽焼とは大きく異なるものの、15代楽吉左衛門はこの亜流とも言える製法すら自らの作陶に吸収していきます。
2000年にフランス芸術・文化勲章シュヴァリエ、翌年には京都府文化功労賞を受賞し、2007年滋賀県の佐川美術館に楽吉左衛門館を開館するにあたり設計にも携わり、建築関係でも複数の賞を受賞しました。
また、この年から4年にわたり毎夏フランス南西部のビルニャック村に滞在し作陶するようになり、当地の赤土やスペインの黒土、クヌギ灰やフランスの鉱石を釉薬に用いた「フランスRAKU」を制作します。
近年では二人の子息との三人展を開催し、2019年に長男に家督を譲り、現在は楽直入として作陶を続けられています。
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骨董、茶道具の中で郡を抜いて知名度・人気を誇る楽茶碗は、日本ならではの侘び茶の美意識を象徴する存在でもあります。
写真の15代楽吉左衛門の黒楽茶碗は、3代目の楽道入の作品にも通じる斬新な文様が特徴のお品物です。
黒楽茶碗は釉薬や焼成の条件により、ひとつ一つ色合いや趣が異なり、蒐集家も多く中古の美術市場でも需要が高いお品物の一つとなっています。
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ご売却・査定の際には以下の項目が重要となります。
・共箱、極箱の有無 …箱についてはコチラ
・割れ、欠け、汚れ等の有無
・仕覆(しふく)茶碗を包む袋
共箱の書付や、極箱、識箱は非常に重要です。
15代楽吉左衛門は、先代以前の作品に多くの極書きを残しています。作者がどちらか定かでない場合など、お写真をいただけますと判ります。
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