不気味すぎるゆるキャラであると不評の末、逆に人気者となった『せんとくん』をデザインした藪内佐斗司によるブロンズ作品です。
風の子『追風 福兵衛』が黄金の瓢箪に乗っていつもがんばるあなたに追風を届けてくれます。
奇抜ながらもほっこりさせられる、新感覚のブロンズ像です。
藪内佐斗司はせんとくんの関係で奈良のイメージが強いですが、1953年 大阪の阿倍野に生まれ堺で育ちました。
小さな頃から絵が好きで、手塚治虫に憧れて漫画家を目指し、10歳の時には通信教育でマンガ学校を受講していたそうです。
中学時代は近くにあった遺跡で土器の破片を発掘し、棺も掘り当てたこともあるなど歴史が身近にあり、高校もすぐ近くに反正天皇陵、徒歩圏内に仁徳天皇陵という環境でした。
これらの特異な体験は、上京して初めてその貴重さに気づいたそうです。
受験で芸大の絵画専攻を目指しますが、当時の倍率は50倍超えであり、浪人中に倍率が1/3であったという理由で彫刻に鞍替えの末、東京藝術大学 彫刻科に合格します。
さらに大学院に進み卒業後は大学に残れることとなり、非常勤講師を務める傍ら古典技法の研究や仏像の保存修復に参加しました。
この時に仏像について本気で勉強し、自分に根付いたやりたかった事であると実感したそうです。
そして古典技法を元に檜・漆・顔料などを素材とする独自の木彫技法が生まれました。
1987年から本格的に彫刻家として活動を開始し、この頃からテレビにも出演し分かりやすい仏教や仏像の話で評判となり度々メディアに登場しています。
あどけない童子、ユニークな動物、独特の存在感のある仏像など魅力あふれる作品や、野外彫刻にも意欲的に取り組む他、才能は彫刻だけにとどまりません。
2008年にはゆるキャラが乱立する中『せんとくん』のデザインを発表し、異様すぎると話題になった後の大ブレイクとなり一般的な知名度も高めました。
この後、堺市博物館『サカイタケルくん』(2013年)、川崎大師平間寺『ひらまくん』(2020年)の公式キャラクターも手掛けています。
近年では2021年に奈良県立美術館 館長に就任し、新たな挑戦として2023年度 開校予定のミスパリ学園ビューティ&ウェルネス研究所 所長に就任するなど、幅広い分野で活躍中です。
薮内佐斗司は、この世の全ての現象の背後には、不思議なエネルギーが働いているといいます。
それは中国では『気』、日本では『たましい』、欧米では『スピリッツ』のように呼ばれている神秘の力で、具体的に形にしたものが童子であり、森羅万象にひそむ命の根源のシンボルです。
陽気で無邪気で気まぐれな童子は、身の回りにある大切なことであったり、大自然の偉大な力を感じさせてくれたり、畏怖の念と温かな気持ちを運んでくれます。
奇抜でユーモアが溢れる薮内佐斗司の童子は癖になる魅力があり、ファンも多く中古市場でも高い需要です。
薮内佐斗司は「仏様から教えていただいた技法」と語っているように、仏像の修復の経験から独自の技法を生み出しています。
材木は仏像と同じ檜を使用し、驚くべきはデッサンなしで、四角い木に正面図と側面図を描いて立体的に見当を付けて彫っていくそうです。
2本以上の材木を組み合わせて設計する『寄せ木造り』を採用し、内部を空洞にする『内刳り』(うちぐり)は重量の軽減と乾燥による割れを防ぐ効果があります。
着色は漆を塗って彩色に使用するのは日本画の顔料です。
この独自の制作方法で様々な魅力的な作品を生み出しています。
1988年に美術商から、日本ではブロンズ像のマーケットは不可能だと告げられますが、薮内佐斗司は諦めません。
日本の美術価値は希少性や権威が重要視されており、当時は際限なく複製できるブロンズ像の価値が見いだせていませんでした。
そこで薮内佐斗司は数量限定での制作とエディション番号を刻むことによりマーケットの開拓に成功します。
ブロンズ像に拘った理由は、人々が権威など関係なく素直に良いと感じた芸術品を、無理しすぎない価格で持ち帰れると、芸術を生活に取り込むことができ高度な芸術文化が普及すると考えたからです。
この薮内佐斗司の取り組みは現代の日本では一般化し、ブロンズ像の価値が保たれることとなり、市場の活性化に繋がりました。
薮内佐斗司は自分のアートで社会に還元したいと考え、公共の場に作品を提供するART FOR THE PUBLICに力を入れており、全国に約100箇所、海外では香港とアメリカにも設置されています。
このART FOR THE PUBLIC(公共の為の芸術)は、芸術家の表現手段であるパブリックアート(公共の場に置かれる芸術)とは異なり、人々によって命を吹き込まれるようなハチ公やお地蔵様のような存在を目指しているそうです。
可愛がられてよく触られているブロンズ像は、とてもいい色に輝き表情さえも活き活きとして、薮内佐斗司を喜ばせます。
その土地に根付くART FOR THE PUBLICは今でも年々増え続けており、ちょっと独特のブロンズ像を見かけたらそれは薮内佐斗司の作品かもしれません。