写真の作品は、才能豊かな数奇の文人 徐渭による画(号: 天地)です。 徐渭の画の代名詞とも言える水墨の花卉雑画であり、形式に拘らず大らかに野菜を描いています。 日本に存在する作品は少なく、非常に貴重なお品物です。

　徐 渭(じょ い) 1521～1593

徐渭は地方の府知事を努めたこともある父親と後妻の侍女との間に生まれた庶子でした。

生後100日で父親が亡くなりますが長兄が商売を継ぎ、後妻に可愛がられて育ちました。

子供の頃から血の気が多い性格ではあったものの非凡な才能があり、6歳から英才教育を受けています。

しかし徐渭が10歳の頃に家の商売が行き詰まり、下男4人が逃亡した他、侍女であった実母は解雇されました。

徐渭が14歳の時には育ての母も亡くなり、深く絶望しています。

20歳で官僚登用試験の科挙の受験資格を得る童試に受かり、続いて科挙の地方試験に挑むも受かることはありませんでした。

間もなく婿養子の形で結婚し幸福を手に入れますが、25歳の時に息子と妻が相次いで亡くなります。

その後生計の為に家塾を営み、生活は苦しいながらも19年ぶりに実母を呼び寄せたそうです。

科挙の地方試験は20年で8回挑み惨敗しますが、倭寇(日本の海賊)対策の最高司令官の一人であった胡宗憲に文才を認められ私設秘書となりました。

様々な文の代筆を行い報奨金を獲得した事で名声が高まる一方、狂人で酒癖の悪さも知られることとなります。

中国明代の武将である胡宗憲は僅か2年での不正事件が発覚し失脚の末自殺してしまい、この事件を目の当たりにした徐渭も自身が罪に問われることを恐れ、更に精神を蝕み奇行に走ります。

精神の病んだ徐渭は、斧で自分の頭を叩き割ろうとして頭蓋骨骨折、キリで両耳に穴を開ける、木槌で自分の睾丸を叩き潰すなどの自殺未遂を9回重ねました。

そして1566年徐渭はついに、妻(後妻と離婚後に迎えた美しい妾)の浮気を疑い殺害、一緒にいた浮気相手も殺したといいますが、実在せず妄想であった可能性が高いとされています。

徐渭の病は、現代の双極性障害であったとの説が有力です。

殺人を犯した徐渭は精神を苛まれながらも決して世に背を向けるタイプではなく、多くの理解者の奔走もあり死刑を免れます。

その後7年間の投獄生活では読書や詩作は許され、精神的にも穏やかに過ごすことがでました。

また、実母が亡くなった時は仮出獄が認められた他、執筆の依頼もこなしています。

52歳で出所した徐渭は、中国各地を遊歴して多くの人物と交遊し、意欲的に画、詩、文筆を制作しました。

現存する作品のほとんどがこの時期の物と言われています。

ですが60歳ごろから徐渭は病が進行し帰郷、次男と暮らし人には会わないながらも作品制作は続け、1593年73歳でその生涯を閉じました。

　徐渭の影響を受けた人物

 

徐渭は自分の才能は1.書、2.詩、3.文、4.画の順の自己評価を出していますが、現代の世論では画の評価が一番です。

徐渭はそれまでの伝統的な花鳥画とは異なった、水墨の花卉雑画を好んで描きました。

草花、果物、野菜などの身近で雑多なものを題材としています。

伝統に囚われずに、モチーフに必要でない部分を省き、水墨の偶然性を追究する自由で大胆な画風は中国の近代絵画の先駆けとなりました。

清時代初期に活躍した八大山人、揚州八怪、石濤、趙之謙、そして近代の巨匠 呉昌碩と斉白石に深く敬愛されています。

斉白石は詩の中で

『恨不生三百年前、為青藤磨墨理紙』

『300年前に生まれて、青藤(徐渭の号)の為に墨を磨り紙を準備できなかったことが恨めしい』とまで言っています。

揚州八怪の中でも特に名高い鄭板橋(鄭燮)も

『徐青藤門下走狗鄭燮』
『青藤(徐渭の号)の門下の家来 鄭燮』という印鑑を作成したほど心酔していました。

いわの美術では徐渭に影響を受けた八大山人、揚州八怪、石濤、趙之謙、呉昌碩、斉白石の作品もお買取りしております。