ダンディな大人の愛煙文化ともいえるパイプ。紙巻き煙草とは違い、パイプでゆっくりと時間をかけて煙を楽しむのは、まさに大人の男性を象徴しています。
パイプの代名詞としてイメージしやすい存在なのが、シャーロックホームズなどでお馴染みのブライヤーパイプです。クレーパイプやガラス製・金属製などのパイプもつくられてきましたが、現在の主流となっているのが、熱伝導率が低く、ボウルを持って喫煙可能なブライヤーパイプです。
ブライヤーは、ホワイト・ヒース(White Heath)と呼ばれるツツジ科の潅木の根塊で、学名をエリカ・アルボレアといいます。
もともとブライヤー(Brier,Briar)という英語は、イバラ、特に野生のバラの茂みを指す言葉として使われてきたためか、「ブライヤーはバラの根」という説が流布しているようですが、これは誤りで、ブライヤーはツツジ科エリカの同族です。
ブライヤーは、スコットランドなどに多いヒースに似ており、白い小さな花をつけるところからその名があります。地中海原産の稀少な材料であるホワイト・ヒースの分布は、ギリシャ・イタリア南部・サルジニア・コルシカ・南フランス・スペインなどに限られています。
ホワイト・ヒースが分布する地中海沿岸地方は夏は乾燥して暑く、冬は温暖で多雨という環境です。その中でも、北向きの斜面や岩石の多い砂質の痩せ地といった、植物の生育には過酷な土地で育ったホワイト・ヒースの根ほど、よいブライヤーの原木になるといわれており、50年(直径20㎝前後の根塊)以上を経過したものが採掘されます。
ブライヤーパイプの素材となるホワイト・ヒースは人工的に栽培するのは不可能といわれ、採取するのは、すべて自生するものばかりです。そのため、近年、ブライヤーパイプの需要が急速に伸びたことから、材料難が危惧されており、産地によっては乱掘のため、減少が著しい地域も出ているのが現状のようです。
ブライヤーの最大の魅力は、素材が持つ木目にあります。 ブライヤーの原材料は木部ではなく木の根塊で、この根塊の導管のラインが木目のように見えるため、通常「木目(グレイン)」と呼ばれています。
ブライヤーの原材料は根塊であるため、虫食いや砂や石を噛んでいることがほとんどで、全く傷のないブライヤーパイプというのは稀有で、非常に希少価値のあるものとなります。
小さな疵などはパテなどで埋めて安価なクラスに分類され、無疵なものも、木目の良し悪しやピンホール(針でつついたような小さな穴)の有無を検査されて選別されます。
木目が等間隔に揃っているものなどは皆無に近いといわれています。
木目のクラス分けは、メーカーにより異なりますが、最上級のストレートグレインから最下級の普及品パイプまで、多いものでは十数クラスに分別されることもあります。多くの場合、仕上げや塗色、マーク、刻印などで区別されますが、ブライヤーパイプの良し悪しはパイプ自体の機能的な良し悪しとは無関係に、ブライヤーの品質(希少価値)、道具としての美しさによって、ほとんど決定されます。